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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第1章 夏の華
暁はアルフレッドの毛艶や瞳の輝きなどを入念にチェックする。
兄、礼也に教わったやり方で全身隈無く見て、異常がないと分かると、鬣を撫でて話しかける。
「…馬丁がよく世話をしてくれていたんだね。良かったね、アルフレッド。今日は遠乗りは無理だけど、外遊しようね。…ジークフリートも一緒だよ…」
興奮するアルフレッドをいなしながら、声をかけていると、馬房の入り口から躊躇うような声が聞こえた。

「…暁…」
…懐かしい、聞き覚えのある声だった。
ゆっくりと振り返る。
暁は大きな瞳を見開いた。

「…春馬さん…」
…暁のかつての恋人、大紋春馬が佇んでいた。

思わず息を呑む暁に、大紋はゆっくりと近づく。
…千鳥格子の乗馬ジャケットに黒い乗馬ズボン、黒い長ブーツ…。
まるで英国紳士の馬術選手のように正統派の美男ぶりであった。

大紋は暁の前まで来ると、穏やかに暁を見つめ話しかけた。
「…久しぶりだね。…元気そうだ…」
暁は微かに微笑った。
「…ええ…。お陰様で…」
…かつて、彼との恋に破れ、胸が張り裂けんばかりに泣いた夜もあった。
死んでしまいたい夜もあった。
…だが、今はこうして微笑って言葉を交わすことができる。
暁は思いきって貌を上げた。
大紋の包み込むような優しい眼差しは、相変わらずだった。
それは少しだけ切なく、暁にかつての恋を思い起こさせた。

暁はそんな思いを振り払おうと、明るく口を開いた。
「先月、お子様がお生まれになったのですよね?…おめでとうございます。…男の子だと兄から聞きました」
大紋がやや戸惑ったように頷き、微笑んだ。
「…あ、ああ。…ありがとう」
「お子様は、可愛いでしょう?」
苦笑しながらも大紋は頷いた。
「ああ、可愛いよ。…すごく可愛い」
それは大紋の良き父親ぶりを表すような優しい笑みだった。
「…良かった…」
暁はそっと呟いた。
…良かった…。
その子から、父親を奪わないで良かった…。
不幸な子どもにしないで良かった…。

大紋はそんな暁をじっと見つめ、真摯な眼差しで告げた。
「…子どもは暁人と名付けたよ」
暁は思わず大紋を見上げる。
「…あきと…?」
「…ああ。…暁の人だ。…君の名前を貰った。…どうしても君の名前を名付けたくて…」
「…春馬さん…」
…何と答えて良いのかわからず、俯く暁の視野にふと、馬房の入り口に佇む月城の姿が目に入った。


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