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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第8章 真夜中のお茶をご一緒に
温かい格好を…と念を押され、司は上質の白いカシミアのセーターにココアブラウンのパンツ、同色の編み上げブーツに銀狐の毛皮の襟巻きがついたキャメルカラーのコートに着替えた。
毛皮や洋服や靴は過保護な父親の忍が、パリを離れる時に行きつけのメゾンで向こう一年分くらいオーダーしてくれたものだ。
「…司は美人だからな。きっと日本でスターのように目立つだろうな」
メゾンで次々と服を試着させては目を細めた。
忍は未だに熱愛する妻、百合子に良く似た司の容姿がお気に入りなのだ。
…父様や母様、瑠璃子は元気かな…。
今日はフランスも新年だから…皆でお祝いしているかな…。
パリの家族に想いを馳せ泉を待っていると、ほどなくして彼は現れた。
エントランスに佇む司の姿に、はっと一瞬目を奪われたような表情をし、ゆっくり近づいてきた。

「…綺麗ですね、司様」
あからさまに誉められ、司は頬を赤らめ貌を背ける。
「やめてよ。…眼の下には隈が出来ているし…肌は荒れてるし…病み上がりで酷い貌なんだからさ…」
温かい泉の手が優しく髪を撫でる。
「…綺麗ですよ。とても…」
その言葉に思わず貌を上げると、泉の包み込むような眼差しがあった。
「…泉…」
心臓がきゅっと締め付けられるような甘いときめきに、司は慌てて泉を見下ろす。
「…せ、泉も…か、かっこいいよ。…なんだか、いつもの君じゃないみたいだ…」

それは本当だった。
シンプルだが仕立ての良いチャコールグレーのツイードのジャケットに同色のパンツ、白いシャツに臙脂色のセーター姿の泉は颯爽としたスタイルで、執事というより大学生のような若々しさだった。
ベージュのトレンチコートを羽織りながら、泉は微笑む。
「お褒め頂き光栄です。…さあ、まいりましょう」
背の高い泉が先導するように重厚なドアを開ける。
落ち葉一つなく綺麗に掃き清められた玄関に立つと、真冬の透き通るような陽光がきらきらと降り注いだ。
眩しそうに額に白い手を遣る司を振り返り、泉が独り言のように呟いた。
「…本当に、綺麗だ…」

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