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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第8章 真夜中のお茶をご一緒に
帰りの道は二人とも言葉少なだった。
けれど、嫌な沈黙ではない。
言葉ではなく、繋いでいる手からその温もりでお互いの気持ちを感じ取りたいと願うような、沈黙であった。

屋敷の門扉を開き、中に入る。
プロムナードを歩き始めた時、司が立ち止まり泉の手を引き寄せる。
「…泉…。今日はありがとう。…すごく楽しかった」
泉が眼を見張り、見下ろす。
「…司様…」
「…年末から悲しいことばかりで、落ち込んだけれど、お正月は最初から嬉しいことばかりだった」
司は輝くような笑顔で続けた。
「…泉のお陰だ。ありが…」
最後の言葉は形にはならず、泉の熱い唇に奪われて行った。
「…んっ…!」
…イブのキスのように触れ合うだけのキスではない。
泉の唇は司の柔らかな唇を荒々しく押し開き、白い歯列を割り、舌を探り当てた。
そして震える司の舌を、強引に絡め取る大胆なキスをした。

「…あ…あ…っ…ん…」
破魔矢が手から落ち、大理石の上で乾いた鈴の音が鳴り響く。
泉は震える唇を一度は解放してやり、睫毛が触れ合う距離から低く囁く。
「…嫌だったら…言ってください」
司は潤んだ瞳で泉を見つめ、黙って首を振った。
「…司様…!」
泉の大きな手が司の貌を引き寄せ、更に濃密なくちづけを繰り返す。
泉の肉厚な舌は司の柔らかな口内を蹂躙するように貪り尽くし、千切れるほどに司の舌を求めてきた。
「…んんっ…は…あ…っ…」
荒々しくも甘美なくちづけに、司は息も絶え絶えになる。
「…す…き…」
甘く掠れた微かな吐息のような声…。
泉がはっと息を呑む。
「…もう一度、言ってください」
唇を離し、額を寄せる。
「…すき…だよ…泉…」
「…もう一度…」
くぐもった声が耳元をくすぐる。
息が止まるほどに強い力で抱きすくめられる。
「…好き…大好き…泉…」
「…司様…!」
甘やかな吐息を奪うように、くちづける。
司は少し背伸びをして、泉の首筋に腕を絡める。
細身なのに逞しい男の腕に抱かれながら、司は狂おしいほどに濃密な…それでいて優しいくちづけを与えられる度に、この男に対する恋心が募ってゆくのを身体中で感じていた。






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