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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第10章 初月の夜も貴方と
握りしめられている暁の手が小刻みに震えだした。
「…な、何を言っているんだ…そんなこと…そんなこと…」
暁の言葉を聞き、月城の表情が少し憂いを帯びた。
「…お嫌ですか…」
暁は必死で首を振る。
「違う!僕なんか連れ帰ったら、君はきっと白い目で見られる!…君の評判が台無しになる!」
暁は月城から貌を背けた。

「…月城のお母様や妹さんは、きっと君に相応しい綺麗で淑やかな女性を連れ帰ると思っているんだ。特にお母様は…息子のお嫁さんに会えるのを楽しみにしているはずだ。
それなのに…男の僕が一緒に帰ったら…きっと驚く。…そして哀しむ…。…だから…僕は行くわけにはいかない…」
ややあった沈黙のあと、月城が普段と寸分違わない穏やかな…温もりを感じさせる声で囁いた。
「…暁様。…こちらを向いてください」
暁はこわごわと月城を振り返る。
その肩をすかさず引き寄せる。
月城のひんやりした手が、暁の貌を持ち上げる。
「…貴方は世界で一番美しい私の伴侶ですよ。
私の愛する貴方を、母や妹が不快に思うはずがありますせん。…他人がどう言おうと私は気にしません。そんなこと、どうでもいいことだ」
「…月城…」
潤んだ無垢な美しい瞳に映る自分の貌を見つめながら、月城は告解した。
「…本当はもっと早く貴方を私の家族に引き合わせたかった。…妹の結婚式にもお連れしたかった。
…できなかったのは、貴方の立場を慮ってしまったからです。私は地位も名誉もないただの平民ですが貴方は違う。縣男爵の弟君だ。貴方が田舎で要らぬ好奇の目に晒されることを考えると…お連れする勇気がなかったのです。」
…凛の婚礼祝いに…とパリで特別に作らせた上等のハンドバッグと靴、それに最新流行のスーツを誂えてくれた暁の表情を思い起こす。
「凛さんは村長夫人だから、洋装はいつか使う日も来るかも知れないから…。月城からと言ってお渡ししてね」
そう微笑んだ暁は…どこか寂しげな表情が透けていた。
…一緒に行こうと喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ月城の胸に広がった苦い痛みを、今更ながらに思い出した。
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