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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
…綾香叔母さまのお唄は好きだけど、お行儀よくしなくてはならないのが、窮屈だ…。
薫はサロンの長椅子に寝そべろうとして、光に頭を小突かれ仏頂面になる。
ふくれっ面のまま、不承不承坐り直す。
…隣の國彦を何気なく見ると…
薫のひとつ年下の従兄弟はきちんと紺の制服を崩さずに着て、背筋を伸ばしている。
…京都の名門私立のそれを薫は横目で眺めた。

國彦と会うことはあまりない。
京都の全寮制の学校に通っている國彦が東京に帰省するのは稀だからだ。
…それでなくても國彦は薫にとって殊更仲良くしたいようなタイプではなかった。
生真面目な丸眼鏡を掛けた表情の乏しいうらなりみたいな従兄弟…。
それが國彦の印象だった。
大人しく真面目で…だから大人たちの評価は頗る良いが、子どもから見たら一番面白くないタイプだ。
成績優秀な秀才らしいが、スポーツはからっきし苦手で、一緒に逗子の海に海水浴に行った時、國彦が波打ち際で溺れそうになり大騒ぎになった。
もちろん乗馬など馬に触ることも出来ないほどの臆病だ。
…こいつがもう少し面白みのあるヤツならなあ…。
ふっと苦笑した時、國彦が珍しく丸眼鏡の奥の瞳を見開いて一箇所を凝視するように釘付けになっていることに気づいた。
…珍しいこともあるもんだな…。
國彦が何に興味を持ったのか、好奇心が疼きそちらを見る。

…國彦の視線の先には、皆からすこし離れた窓辺のソファに腰掛けている伯父の暁の姿があった。
國彦の貌を振り返る。
…意外に長い睫毛の奥の一重の瞳はうっとりとした…夢見るような表情が浮かんでいた。

…へえ…。なるほどね…。
薫はにやりと笑った。
従兄弟のぼうっと見惚れている耳元に囁いてやる。
「…暁伯父さま、美人だよなあ…。國彦、初めてだっけ?お会いするの」
國彦はびくりと身体を揺らすと、慌てて俯いた。
「…べ、べつに…そんな…」
「格好つけるなよ。暁伯父さまを初めて見た人はみんなそんな貌をする」
僕は慣れっこだ…と言ってやると、國彦はおずおずとまた暁を振り返った。

薫は唄うように囁く。
「…人形のように整った綺麗なお貌…白雪姫のような白い肌…スタイルはいいし、物腰も優雅で…とても35を過ぎたひとには見えないよなあ…見た目せいぜい25…てとこだもんな」
「え⁈そんなに年上⁈」
國彦が思わず本音を漏らす。
素直な反応が面白くて、薫はくすくす笑う。
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