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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
シスターによる食前の祈りが厳かに済むと、小太りの柔和なシェフがメニューを読み上げる。
「……今日のメニューは青豆の冷製スープ、舌平目のムニエル、ハンブルグステーキ、フルーツババロアですよ。焼きたてのバケットもたくさんありますからね。どんどん召し上がれ」
子ども達は一斉に目を輝かせながら、カトラリーを取り上げた。

孤児院の子ども達はとても行儀が良い。
それぞれが美味しそうに食事を進める様子を暁は静かに微笑みながら見つめる。
この三年で見違えるように成長した子ども達が愛おしくてならない。
…ふと、そんな暁をじっと見つめる藍染と目が合う。
「…僕がここの子ども達と知り合ってから三年が過ぎたんだ。…みんな大きくなったな…て、感動してね。
…僕には子どもがいないから、みんな我が子のように可愛いんだ」
「それで親身に慈善活動を?」

暁はさもないことのように告げる。
「僕は元々この近くに生まれ育ったんだ。
…酷く貧しい長屋育ちでね。…食べるものにも事欠く有り様だったよ」
藍染は端正な眉を寄せた。
「…え?…でも暁様は…」
暁は黒曜石のように美しい瞳でふんわりと笑った。
「僕の母は先代の縣男爵の愛人だったんだ。
メイドをしていた母は縣夫人の逆鱗に触れ、屋敷を出て一人で僕を生み、育てた。
母が亡くなり、路頭に迷いそうになっていた僕を探して引き取ってくれたのが、今の縣男爵…僕の兄だ」
「そうだったんですか…。暁様は産まれながらの貴族のように上品でいらしたから…」
驚いたような眼をする藍染ににっこりと笑う。
「ありがとう。そう見えたとしたらそれは兄のお陰だ。
兄は僕に有り余るほどの愛情を注いで、僕を育て教育してくれた。感謝してもし足りないほどに…ね」
…だから…と、暁は卓の子ども達を見回す。
「僕もこの子達にできる限りのことをしてやりたい。
…愛情と教育をできるだけ与えてあげたい。
この子達がいつか自信を持って社会に旅立ってゆけるように…」
藍染はじっと暁を見つめた。
「貴方はやはり素晴らしい方だ。…お優しくて強くて…何より誰よりもお美しい…聖母マリアのような方だ」
暁は彼の熱い言葉に思わず苦笑する。
「褒めすぎだ。…それに…せっかくのムニエルが冷めるよ」
そうユーモア交じりに言い添えて、ナイフを動かした。

藍染はいつまでも暁を熱い眼差しで見つめ続けることをやめはしなかった。

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