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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
…屋敷の庭園で撮られたものらしい写真は、二人だけが映ってた。
この頃の二人の親密度が手に取るように解るものだった。

二枚目は、梨央が月城の頬にキスをしている愛らしい写真だ。
…月城はくすぐったそうな…それでいて愛おしくて仕方がないような愛情が滲み出ている表情をしていた…。

暁の胸はかき乱されるように苦しくなる。
…この頃の月城を僕は知らない…。
自分の知らない月城を当たり前のように享受している梨央が羨ましくも妬ましい。
また、この頃の月城は暁を知らない。
貧乏長屋で極貧生活をしている痩せっぽちで小さな惨めな子どもなど知る由もない。

全く交わらない二人の過去…。
それがとても切ない。
仕方がないことなのに、切ない。

暁はそっと写真を引き出しに戻した。
「…月城…」
月城の寝台に横たわる。
きちんと洗濯され、糊の効いたシーツからは仄かに月城の薫り…水仙の花のような薫りがする。
「…月城…好き…愛している…」
まるで片恋の少女のように溢れる心の想いを言葉にする。

シーツをそっと撫でる。
「…早く…帰ってきて…」
…逢いたい…逢いたい…逢いたい…
今、一目でいいから、逢いたい…
逢って抱き締めてもらえさえすれば、暁の心にある疑いも寂しさも全て払拭されるのだ…。
…ただ、逢いたい…
君に、逢いたい…。
暁は瞼を閉じて、愛おしい男の面影を探す。


…その夜、月城は帰っては来なかった。
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