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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第12章 その愛の淵までも…
月城は朝一番の汽車で帰り着いた副執事の早月と手早く申し送りを済ませた。
幸い早月の母親の病状は峠を越し、快方に向かっているとのことで月城も胸を撫で下ろした。
感謝の意を述べる早月と業務を交代すると、取るものもとりあえず、麻布十番の暁の家に駆けつけた。

「暁様!暁様はおられますか⁈」
…きちんと片付いた家は静まり返り、人の気配は全くない。
一階の厨に入ると、作業台の上に家政婦のいとが残したらしきメモが置かれていた。

そこには、暁はここ数日前から松濤の縣邸に行っており、しばらくそちらで滞在するらしいことと、いともそれに伴い一週間休みを与えられたことなどが簡潔に書かれていた。

月城はメモを握りしめ溜息を吐いた。
…やはり厚かましくとも、縣商会の方に連絡を入れるべきだった。
暁が切羽詰まった様子でわざわざ月城を訪ねて来たのだ。
それを梨央の急病があったにせよ蔑ろにしてしまい、二週間も連絡をしなかった。
多忙だったとはいえ、やはり思い遣りに欠ける態度だった。
神経症とも言えるほどに寂しがり屋な暁には、どれだけ堪えたことだろうか。
暁はとても我慢強く、決して我儘を言ったり自分の要求を表に表したりはしない。
だからこそ、それを察してやらなくてはならなかったのだ。
…今更ながら、胸が痛む。

「…暁様…」
暁は何が言いたかったのだろうか…?
あの表情は、尋常ではなかった。

…「お二人の愛など砂上の楼閣…。
一波くれば脆く崩れ去ってしまうのですよ…」
不吉な呪文のような藍染の言葉が蘇る。

月城は端正な眉を顰め、その言葉を消し去るように頭を振り、暁の家を後にした。
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