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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
「…またワインの輸入の制限がかかったな…」
朝食の席、食後の珈琲を前に暁が新聞を閉じながら小さく溜息を吐いた。
月城は新聞を受け取り、普段と変わらない端正な表情で答える。
「…まずは嗜好品からの締め付けですか…。軍靴の足音が益々喧しくなってまいりましたね」
「…ああ。炭鉱は過重なくらい生産を急かされているが、縣商会で扱うワインには影響が出始めている。
欧米のワインの輸入に制限がかかりはじめたからな。
…うちのビストロの輸入食材も仕入れ値が値上がり出したから…料理の価格を上げざるを得ないとオーナーに言われたよ。
…庶民のための店だから、値上げはぎりぎりまでしたくないんだが…」
暁は壁にかかっているスイスのアンティークの柱時計をちらりと見上げ、立ち上がる。
もう出かけなくてはならない。

しなやかな所作で月城が上着を持ち、暁の肩に着せかける。
「お優しいですね。相変わらず…」
上着を着て振り返ると、眼鏡の奥の温かい眼差しと視線が合う。
暁は甘えるように微笑った。
「…そうかな…」
そんな暁の形の良い顎を引き寄せ、そっと愛情深いくちづけをする。
「…ええ。どなたにも分け隔てなく優しくされる…貴方はずっと変わらない…そしてずっとお美しい…」
「…月城…」
昨夜あんなに愛し合ったのに…月城にくちづけされるだけで、身体の芯が疼く。
潤んだ瞳で男を見上げる。
「ねえ、今夜は早く帰れる?」
月城の瞳が済まなそうに細められた。
「申し訳ありません。今夜は大学時代の友人と会う用事がありまして…」
その返事に少し落胆しながらも、明るい笑みを浮かべる。
「そう。それは良かったね。ゆっくりしてきたら良いよ」
…月城が大学時代の友人と会うなど珍しいことだからだ。
月城の学生時代か…。
どんな学生だったのかな…。
…自分の知らぬ月城がそこに存在することを、暁は今更ながらにやや嫉妬めいた感情を持った。
そんな暁の胸中を測ったかのように、柔らかく抱きしめる。
「…明日は夜勤を終えたら直ぐに帰ります」
水仙の花の薫りがする胸元に頬を寄せる。
「…無理しないでいい…」
…本当は、会いたい…。
…でも…我儘は言いたくない。
「帰ります。貴方に会いたいから…」
幼子に言い聞かせるように囁く。
「…月城…」
…月城の胸はいつも温かい…。
この幸せがずっと続きますように…。
暁の願いは、それだけなのだ…。


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