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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第13章 永遠の最果て
…翌朝の月城は普段と変わらない、いつもの月城であった。
暁は朝食の席に着きながら、優雅な所作で珈琲を注ぐ男を盗み見る。

既に執事の制服に着替えた彼は、誰よりも高潔で端正で優雅な姿をそこに留めていた。
「今日は少し蒸すようですね。
そろそろ夏物のお召し物をお出しするように、いとさんに伝えておきましょう」
優しい口調で話しかけてくる様子は、いつもの月城だ。
…昨夜も…。
あれから寝室で、腰が立たなくなるほど濃密に愛された…。
何度も求められ…最後は意識を朦朧とさせながら応えた…。
甘く爛れた執拗な性行為だったが、月城は最初から最後までとても優しかった…。

暁は勇気を振り絞り、口を開いた。
「…あの…月城…。昨日はどこで友達と会ったの?」
珈琲カップをソーサーに戻す月城の手が一瞬硬くなった気がしたのは、考えすぎだろうか…。
こちらを向いた時、月城はいつもと寸分違わぬ端正で美しい微笑みで答えたのだから…。

「…有楽町です。ドイツ酒場でビールを飲みました。友人はザルですから、大変でしたよ」
「そうなんだ。…それから帰ってきたの?」
「ええ。日比谷で別れて帰ってまいりました。
…どうかされましたか?」
暁は明るく笑ってみせる。
「ううん。何でもない」
そうして月城が淹れてくれた珈琲を口に運ぶ。
暁の胸に沈み込むような苦味が広がった。
…どうして…嘘を吐くんだ…。
どうして…。
…僕に話せない訳でもあるのか…?
…まさか…本当に…。

…マルクス…反政府運動…革命…。
昨日の粗悪なビラの惹句が、暁の脳裏にじわじわと蘇る。
…まさか…君が…。

月城は美しい彫像のような横顔を見せたまま、庭から摘んで来た青い紫陽花を花瓶に活けている。
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