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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
…蜂蜜を溶かし込んだような艶やかな金髪、ニースの海のような碧い瞳、綺麗に日に焼けた貌は端正に整い、成熟した大人の魅力を存分に醸し出している…そんな男性だった。
歳は五十に手が届くか届かないか…といったところだろうが、驚くほどに若々しい。
…未だ優雅な独身貴族のせいかもしれない。

暁はそっとフロレアンを見上げて思う。
…兄さんはフロレアンには会わない方がいいな…。

フロレアンは未だに義姉さんを愛している…。
だから、きっと心配する…。

「どうした?アキラ。私の貌に何か付いているかな?」
暁は首を振り、笑みを漏らす。
「いいえ。…少し、兄のことを思い出したのです」
…ああ…と、フロレアンは特に気分を害した風もなく、眉を上げて見せる。
「アガタね。何度か会ったことがあるよ。…最初は…まさか彼が僕のヒカルと結婚するなんて、想像だにしなかったがね」
暁ははっとして、慌てて詫びる。
「すみません。…無神経でした…」
フロレアンは澄んだ碧い眼を細めて優しく笑い、暁の肩に手を置いた。
「気にしないでくれ。別にアガタを恨んではいない。
…あの時は…仕方なかったんだ。誰も悪くはない。
僕とヒカルは結ばれない運命だったのだ」

…二人とも若かった。
フロレアンを画家として成功させる為に、光は心を鬼にしてフロレアンから去り、日本に帰国した。
光を愛してしまった礼也は、彼女を忘れられずに後を追って帰国した。
そして見合いの最中の彼女を、奪い去ったのだ。
…熱烈な求愛の末、二人は結ばれた。
二人は…密かに愛し合い…求め合っていたからだ。
誰も悪くはない。
…まさに、それが運命だったのだ。

…しかし、フロレアンは未だに独身だ。
恐らくは…まだ光を愛しているのだろう。
暁の心を読み取ったかのように、フロレアンは暁を見つめ、口を開いた。
「…僕は君を見ていると、ヒカルを思い出すよ。
アキラはヒカルにどことなく似ている…」
暁は首を振る。
「僕は義姉さんみたいに綺麗ではありません。義姉さんは大輪の薔薇の花のように華やかで美しいひとですから…」
…本当にそうだ。
華やかで、きらきらとした光の粒子を纏っているような美しい義姉…。
いつも陽の光が当たる場所で女王のように君臨している強く美しい義姉…。
自分など、及びもつかない。




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