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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
最も広く眺めの良いゲストルームが、暁と月城に与えられた部屋であった。
その部屋に戻り、暁はずっと思案に暮れていた。
風間夫妻の申し出は、大変にありがたかった。
…だが本当にこのまま、ここにいて良いのだろうか…と。

…窓の外の華やかな夜景を見つめる暁の身体が、温かく強い腕に抱きしめられた。
「…月城…?」
「悩んでおられるのですね…」
優しい声で囁かれ、暁は思わず苦笑する。
「君は何でもお見通しなんだな」
後ろから交差された逞しい腕を、強く握りしめる。
「…風間様のお世話になることに悩んでおられるのですか?」
「…うん。忍さんは良い人だ。百合子さんも…。お二人は心の底から僕たちを支えて下さろうとしている。
けれどその好意に甘えてしまって良いのだろうか?…それに…」

少しパリの街を歩いただけで分かった。
…日本に帰る機会を逸した日本人達が、たくさんいることを…。
ほとんどは富裕な上流階級の人々だ。
だが中には諜報部員もいるだろう。
パリは各国の諜報部員が暗躍する都市なのだ。
外国に逃げ延びることはできたが、月城は未だに日本ではお尋ね者だ。
パリの日本人社会は狭い。
既に、何人もの知り合いに会った。
いずれ彼らは、月城に国家反逆罪の容疑がかかっていることを知るだろう。
…自分達はここ、パリで息を潜めながら生きてゆかねばならないのか…。
自分は構わない。
自分は月城と生きて行けさえすれば幸せだからだ。

…だが、月城は…。
せっかく異国の地に逃げ遂せたというのに、風間の庇護のもと隠遁者のような生活を送らせなくてはいけないのか…。
身分差もない…しがらみのない新たな土地に来たというのに…。

…それは嫌だ。
月城には自由に伸び伸びと生きて欲しい…!

月城は強く暁を抱きしめながら、労わるように囁いた。
「…私のことは何もご案じにならないでよろしいのですよ。
そのようなことで、貴方の胸を痛めないで下さい。
…私は、貴方のお側にいられるだけで幸せなのですから…」
嘘偽りのない愛の言葉が、胸を突き刺す。
暁は唇を噛み締める。
「…月城…。聞いてくれ、僕は…」

…不意にノックの音が密やかに響いた。
遠慮勝ちに扉が開かれ、年若なメイドが膝を折りながら伝えた。
「お二人にお客様がお見えになっています。
…フロレアン・デュシャン様です」

二人は思わず貌を見合わせた。


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