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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
…bistro la foretのディナーは七時から始まる。
フランス人はゆっくりとディナーを楽しむからだ。
店のランチは予約なしでも食事ができるが、ディナーは予約制だ。
こじんまりした店なので、月城が一人一人のお客に合わせてじっくりと丁寧に料理を提供したいと希望したからだ。

…だから今夜のディナーの客は四組ほど…ニースに別荘を持つパリから来た家族と、地元の若いカップル、この店の前のシェフから通い続けてくれる老夫婦たち…と年齢層は様々だが皆、月城の料理の大ファンであった。
和やかに食事を進める中でもフロレアンと彼の連れの女性の華麗さは一際目立ち、ほかの客達の密かな注目を集めていた。

…その女性は美しいプラチナブロンドにエメラルドのような翠の瞳、上質なルビー色の唇、透き通るような白い肌をして黒いシルクの細い肩紐のドレスを身に纏った極上の美女であった。
フロレアンもお伽話から抜け出てきたような美男なので、思わず見惚れてしまうようなカップルであった。

特に暁は、その女性にずっと眼を奪われていた。
…すごく…良く似ている…。

「…暁様…」
カウンターキッチン越しに声をかけられ、慌てて振り返る。
綺麗に盛り付けられたスズキのカルパッチョの皿を渡しながら嗜めるように微笑みかける。
「…見過ぎですよ」
「だって…」
日本語だから分からないと思いつつ声を潜め、囁く。
「…似ていると思わない?…義姉さんに…」
…髪の色や瞳の色はまるで違うが、その高価なダイヤモンドのようにきらきらと煌めく気高い美貌や雰囲気は…光にそっくりであった。
「…そうですね。お美しい方です。とても…」
月城が称賛の眼差しで見るのに対し、暁は少し子どもっぽい焼きもちを焼く。
「…君は義姉さん贔屓だものな」
…月城は昔、少し義姉さんと色っぽい想い出があったらしいし…。
わざと睨む振りをしてカルパッチョの皿を器用に腕に乗せ、フロレアンのテーブルに向かっていった。
背後で月城が苦笑する気配を感じながら…。
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