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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第14章 Coda 〜last waltz〜
最後のお客を送り出すと、時計は11時過ぎを回っていた。
それから二人は遅いディナーを店内でゆっくり摂るのだ。
賄いとは言え、月城の心尽くしの料理がテーブルに並ぶ。
ヤリイカとアンチョビのピザにカリフラワーの蕾とズッキーニのフリッター、セロリとトマトのピクルス、生ハム、モッツアレラチーズなど…どれも賄いだけではもったいないような美味しさだった。

…明日は久々の休みなので、月城が暁にしきりにワインを勧めてきた。
「最近、弱くなっちゃったから…」
そう断っても
「もう一杯くらい良いでしょう。…酔い潰れたら私が抱き上げてベッドまでお運びしますよ」
そんな色めいた冗談を口にするのも珍しい。
「…じゃあ飲む。約束だよ」
グラスに唇をつけながら、ほんのり桜色に色づいた貌で月城を上目遣いに見る。
…休みの前日は、月城は暁を一晩中寝かさないほどに愛するのだ。
ニースに住むようになって、月城はより情熱的に暁を抱くようになった。
環境が変わったせいなのか、職業が変わったせいなのか…分からない…。
その余りに野生的で蛮勇とも言えるような性の営みに、最初は息も絶え絶えに付いてゆくのがやっとであった。
…けれど今は…。

「…今、いやらしいことを考えていらっしゃいますね?」
ブルゴーニュ産の赤ワインを飲み干しながら、月城は形の良い唇を官能的に歪めた。
暁は小娘のようにうなじを赤らめる。
「…ち、違うよ!」
慌てて話題を逸らす。
「フ、フロレアンのことだよ。
…フロレアン、ヴァレリーさんとあの古城に帰っていったから…。…その…やっぱりそういう関係なのかな…て」

フロレアンはヴァレリーを優雅にエスコートしながら、アトリエがある丘の上の古城へと帰っていった。
…と言うことはそのまま泊まるのだろう。

「…ヴァレリーさんは子爵夫人だそうだよ。人妻なのに…フロレアンはそんなひとを誘惑したのかな…」
つい批判的な口調になってしまうのは、自分が愛人の子どもだったことと、兄夫婦のように愛情溢れた理想的な夫婦を見て来たせいだろう。

それに対しての月城の言葉は意外なものであった。
「…どうでしょうか。恋愛ほど儘ならぬものはありません。夫婦の形も人それぞれです。どれが良いどれが悪いと白黒はっきりと決められるものではありませんから…。
…人はいけないと分かっていても、恋をしてしまう愚かな生き物なのですよ」


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