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終止符.
第16章 愛しい人
奈緒はその手紙を何度も読み返した。

そこには、許すという言葉はどこにも見当たらなかった。 けれども荒縄で縛られていた奈緒の心は、少しずつ縄ががほどかれていくような安心感が広がっていった。



純と向き合ってもいいのだろうか…



「沙耶さんが…、あなたは壁に掛かったパズルばかり眺めてるって言っていました……隣に住んでいた人の置き土産らしいって…」


沙耶は全てを純に報告していたらしい。


「沙耶はすっかりあなたの味方なのね…」

「えぇ…、強力な味方です…ハハ…」


純は頭を掻きながら笑った。


「ホントに心強いわね、ふふっ……」


仕方なさそうに奈緒が言った。


「それって……僕が作ったパズルですか?」


純が真顔で聞いた。


「…えぇ…」


少し俯いて奈緒が答えた。


「奈緒さん、今度は……僕を訪ねて来てください。」

「えっ?」


二人は見つめ合った。


「僕は今、あなたがいたあの部屋に住んでいるんです。」

「………」

「戻ってきて下さい。……あなたの意思で。」

「純…」

「僕、ずっと待っています。」


奈緒には、純がいつの間にか奈緒を包み込む温かさと、余裕を身につけたように思えた。

一途さが形を変えていた。

忘れかけていた胸の高鳴りが奈緒を戸惑わせてはいたが、冷たかった胸の奥が温かくなっていく。

カチャカチャと食器が触れ合う音がする。

鼻水をすすりながら知佳が顔を出した。


「す、すみません…聞くつもりはなかったんです…ぅッ…ほ、本当です…」

「知佳ちゃん…」

「こ、こんなに素敵な人、いません…奈緒さん…行って下さいね、…ちゃんと部屋を訪ねて下さい…わ、私が連れて行きますから…」


知佳が涙を堪えながら言った。


「ありがとうございます。…味方が増えました。」


純が笑った。


「…僕、そろそろ帰ります。知佳さん、遅くまですみませんでした。」


純が立ち上がって頭を下げた。

「あ、いえ…そんな…あ、これ、やだ、すっかり冷えちゃった…もう片付けてきます。あはは…」


知佳はまた出ていった。

「奈緒さん…」


座ったままの奈緒に純が手を差し出した。

奈緒がその手に掴まって立ち上がった時、純の胸が目の前に来て奈緒は抱きしめられた。


「………」


純の鼓動が聞こえた。


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