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ポン・デ・ザール橋で逢いましょう
第1章 其の壱
「…まだ信じられない…。君が俺の腕の中にいることが…」
忍はシーツに包まれた百合子を、宝物のように大切に抱きしめながら囁く。
「私もよ…。…出会った時は貴方はまだ少年だったわ…。その貴方とこんな風になれるなんて…」
情事のあと、百合子は桜色をした滑らかな貌を上げて忍を面映ゆそうに見つめる。
「…初めて会った時からずっと君に恋をしていた…。
俺の前に現れた百合子は…まるで花の精みたいだった。
清楚で美しくて可憐で…。
兄さんが心底羨ましかったよ。
だから今、本当に幸せだ。
兄さんには悪いけれど…でも…兄さんはきっと俺たちが愛し合うことを許してくれる。
…兄さんはそういうひとだ」
…寛大で、優しくて…誰よりも百合子を愛していた。
まるで自分が早逝することを予期していたかのような、言葉を残して…。

兄には到底敵わない。
けれど…百合子のこの手はもう二度と離さない。

百合子は美しい目尻から、水晶のような涙を流す。
「…旦那様は…私たちを許してくださるでしょうか?」
「許してくれる筈だ。兄さんは君が幸せになることを望んでいた。…俺は君を…君と司を幸せにする。約束する」
「…忍さん…」
…美しいひと…忘れたくても忘れられなかった…。
禁じられた恋の形見はまだあの池で眠りに就いているのかもしれない…。
忍は百合子を抱き寄せ、熱く見つめる。
「…たくさん恋をしたよ。…君を忘れるために…。
すべてはうたかたの恋…偽りの恋だった…」
…言いかけて…小さな声で訂正する。
「…いや…ひとつを除いては…かな…」
忍の脳裏に、白く儚げな花のような美しい青年の貌が浮かんだ。

百合子がその白く細い指で忍の唇を塞ぐ。
「…そのお話はもっと先に…私たちが年老いてから聞かせてください…」
艶めいた眼差しに仄かな妬心が漂う。
忍は笑いながら、百合子の顎を持ち上げる。
「百合子にやきもちを焼かれるのは気持ちがいいな…」
「…私は本当はとても嫉妬深いのですよ…」
嫋やかな百合の花に似た貌に、今まで見たことがないような熟した色香が見え隠れする。
忍は華やかな美貌に朗らかな笑みを浮かべる。
「…これからいくらでも見せてくれ。俺の知らない君の素顔を…」
「…忍さん…」
美しい三日月のような唇に、唇を寄せる。
「…愛している。百合子…」
…答えは忍の熱いくちづけに溶けるように飲み込まれていった。
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