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第5章 偶然は必然の前ぶれ

短い葛藤の間、茂はじっと私の返事を待っていた。
そして口をついて出た言葉は・・

「もちろん・・お誘いを受けます。私から会いたいって、言ったんですから・・
　楽しみに待っていますから・・」

茂は細く長く息を洩らしてから口角をあげた。
それからスマートフォンを取り出すと私の前に差し出した。
あなたの電話にかけてください、と。
言われるまま、茂のスマホで自分のスマホに電話をする。
バッグの中で静かに振動を伝えているのを確認してから電話を切る。
取り出して、着信した番号を茂にも見せると彼は頷きながら親指を立てた。

「じゃあ、僕はそろそろ行きますね。今日は本当にありがとうございました。
　電話、待っていてください。それじゃあ」

「お疲れ様でした」

人ごみの中へと紛れていった茂の姿はすぐに見えなくなってしまった。
それでもしばらくその場に立っていた。
動きを忘れたかのように・・立っていた。