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毒蜜喰らわば
第5章 偶然は必然の前ぶれ
「もしもし、稲村さんですか?楠木です」

声を聞いて、スマホを持つ手が少し震えた。

「こんばんは。お電話ありがとうございます」

「今、大丈夫ですか?」

聞かれて、急に冷蔵庫に目がいった。
大丈夫です、と言いながら慌ててキッチンに戻って冷蔵庫を閉めた。

「お約束していた食事なんですけど、今週の金曜日の夜はご都合いかがですか」

「はい、大丈夫です」

「で、お連れしたいお店が六本木なんで、待ち合わせは六本木でもいいですか?」

「ええ、じゃあ、欅坂のランディ・カフェで待っています、いいですか?」

「わかりました、では金曜の夜7時に」


ようやく・・約束が叶った。
スマホを切った後ニヤケた顔を鏡に映してみる。その時・・

自分の顔が別人の顔の様に見えた。
色香を含む目じり。だらしなく半開きになった唇が、
普段よりもぽってりと厚く見える。
鏡を見つめて声にならない悲鳴を上げる。

でも一呼吸してあらためて鏡を見ると、風呂上がりの、
すっぴんのパサパサとした自分の顔がそこにある。
いやだ、ビックリした・・
嬉しさに舞い上がって幻覚でも見えたのかしら?


気を取り直して再び冷蔵庫をあける。
これが祝い酒ってやつね、とひとり言を言いながら
缶ビールのプルタブの音を響かせた。


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