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花菱落つ
第8章 東光寺
 秋も深まり、一気に冷え込むようになった。空気は冷たく冴え渡り、木々は色鮮やかな秋の装いに変わりつつある。義信目を閉じ、虫の音に耳を済ませた。美しい虫の音も、数が多いと少し耳障りに感じる。いや、自分の心が苛立ちにざわついているのだろうか。

 こんな日は眠ってしまうに限ると、義信は灯りを吹き消そうとした。そのとき虫の音がぴたりと止み、外に何者かの気配を感じた。

「そこにいるのは誰か」

 声に応じて影が動いた。影は女性の形をしていた。

「お久しゅうございます」

 義信は影に向かって灯りを掲げた。影の正体は凪だった。
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