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第1章 海に散る桜

　昭和二十年三月。春の柔らかな薄青色の空に、山吹色の練習機が一機、白い飛行機雲を描いて飛んでいた。練習機は河川敷に設置された吹き流し目がけて急降下及び急上昇を繰り返している。

　やがて練習機は近くの子供たちが見上げる前で、近くの桶川飛行学校の方角へ飛び去った。

　通称桶川飛行学校、陸軍熊谷飛行学校桶川分教場は昭和十二年の開校以来、延べ千五百人以上の航空兵を送り出してきた。
　戦況の悪化した昭和二十年二月以降は第五二航空師団として再編され、特別攻撃隊、いわゆる特攻隊の待機所となり四つの待機部隊が命令を待ちながら、連日訓練に明け暮れていた。

　白い尾を引く練習機は斜めに線を描きながら滑走路に着陸した。プロペラが緩やかに動きを止めたのと、小柄な整備員が勢いよく駆け寄ってきたのはほとんど同時だった。