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【Onlooker】~サラが見たもの~
第5章 アイドルの、掟(ルール)?

    ※    ※



『私、長峰ひかるは――NSJ44から脱退いたします』


 瞬間、眩いフラッシュが焚かれ。同時に、どよめきが起こった。

 好奇の光に晒されながらも、ひかるは怯むことなく堂々としている。

 よく聞く“卒業”ではなく“脱退”としたところに、彼女の決意が見て取れた。


『突然の決意に思いますが、その理由はなんですか?』


 芸能リポーターよりの質問。それを受け止めるように一旦、ひかるは瞳を閉じる。そして、柔らかな女性らしい笑みを浮かべ、こう話した。


『私は俳優の栗山真司さんと、お付き合いしていました。そして、この先も――』


 次に起こったどよめきは、更に大きく。ひかるの言葉を、消し去ってしまうほどに。

 だが、それでも。ひかるの確固たる想いは、決して揺らぐものではないのだろう。

 ファンやグループのメンバー、お世話になった人々への感謝と謝罪。それらを粛々と行いながら、涙を堪えられなかったのはファンに対する気持ちが滲んだ時だった。


『アイドルでありながら、やはり一人の女性でありたいと思いました』


 その言葉はとても象徴的なものとして、以後アイドルファンを中心とした大きな論争を巻き起こす発端となった。

 しかし一方で、“恋愛禁止”という掟に背いたこと。そんな己を戒めることを、失念するわけもなかった。

 それがグループの“脱退”という、けじめであり。その後に発表された“芸能活動の無期限停止”にも表れていた。



「……」

 後日、その姿を見たサラは、ひかるの幸せを祈ると気持ちと同じくらい、なんとも言い難い複雑な気持ちが生じていることに気がつく。

 だが、それはあくまでも後日談である。

 激しく抱き合う長峰ひかると栗山真司を見つめた、夜。新たな決意を胸に、二人が去った後――。




「今夜はずっと――僕の側にいてほしい」


 紺野は見つめて、サラに告げた。


「え……?」


 サラの本当に長い夜は、その後に始まった。






【第六章へ】

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