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【Onlooker】~サラが見たもの~
第6章 共にする、一夜?

 二人の両親は、仕事で家を空けることが多かった。厳格な父は多忙を極め、年に幾度もの海外渡航に母を連れ立って行くのだった。

 そんなことだから、そもそもその目を盗む必要すらないのである。両親が不在の屋敷の中で、涼が気にすることと言ったら精々、潤の身の回りの世話をする使用人のことぐらいだ。それだって立場の違いを利用すれば、誤魔化すことだってできる。本来そういった権力の傘に入るような真似は、嫌ではあったけれども。

 だから、容易かった。夜、静けさに包まれる広い屋敷。それに乗じて、潤の部屋を訪れることなんて。

 カーテンの隙間から差し込む、優しげな月明かり。潤の横たわるベッドに腰を下ろし、涼はその頬を愛おしげに、そっと撫でた。


「……」


 自分を一心に見つめている瞳が、ゆるゆると揺れる。それでいて視線は、揺らぐことはなくて。なにかを期待して、止まないように……。

 恋をしたい。妹は言った。

 それを叶えようとした兄は、その刹那、大いに戸惑っている。


「潤……やっぱり、よそうか」


 初めて男女として共にしようとした夜を前に、しかし――涼は言った。

 初めての恋に、潤はのめり込もうとしていた。行きつくところまで、行ってしまうのだと欲していた。

 涼は、そう感じ、それが怖くなった。


「……」


 兄の言葉を聞いた潤の、感情の気配(いろ)が俄かに変わる。押し黙り。瞳を閉ざし。それから、見つめ返した。


「そうね……わかったわ。私の我儘に付き合ってくれて、今までありがとう……兄さん」


 笑う、その表された感情の種類に反するように、その顔は、悟りきって諦め尽くした、あの顔だ。

 それを目の当たりにし、ハッとする。自分でも、そう動けと身体に命じた覚えもない。だが、涼は――潤に覆い被さるようにして、激しくか細い身体を抱きしめた。


「潤――ああっ、潤」


 衝動に突き動かされてゆく。怖かった、そう感じていたのは、潤に対して抱いた想いではなく自分の心内包されていたもの。妹に只ならぬ感情を抱いてしまった、自分自身に。だがそれでこそ、妹の――潤の望みを真に叶えることができるのだ。

 もう己が心に正しさを質すのは、止めよう。涼は決めて――


「潤……いいんだね?」

「……」


 こくりと頷いた、その身体を――この夜、涼は初めて抱いた。

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