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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?

「とても稀に、そういう生き方しかできない人がいる」


 黒木はそう言って、サラの目を見た。それから視線を下に落とし、こう続ける。


「最初は大まかな役割を与えてやれば、それでよかった。たぶん、俺の親父もその程度に思っていたはずだ。だが、その性質は次第にエスカレートする。今日は先に寝てればいいのか、帰りを待つのか。その場合、何時まで待ち続けたらいいのか。飯は取っておくのか、帰る時間に合せ温め直すのか、その必要はないのか――そんな細かいことを、なにからなにまで決めてやらなければ、不安に陥って仕方なくなるんだ」

「……」


 まだその話にピンと来ずに、サラは黙って耳を傾けている。


「俺の親父は、元から家庭的ってのとは正反対の男だ。若いチハルさんが魅力的だったとしても、そんな調子じゃすぐに冷めていたのかもしれないな。次第に俺たちが居るマンションには寄りつかなくなって。それならそれで離婚すればいいって思うだろうが、そう簡単にはいかない事情があったことを、俺も後々で気づかされることになった」


 黒木は新しいカクテルを口にすると、どこか遠くを見つめた。


「そして、チハルさんは“そんな自分自身”をよく知っていた。だからこそ、自分が依存すべき相手を懐柔して、自分から離れられなくする手立て――あの女なりの処世術ってゆーのか。自分が相手になにを求められているのか、よく心得ていた」

「それって……?」

「もちろん……いや」

「?」


 サラの疑問を交わしてから――


「――問題なのは依存する対象が、親父から俺へと徐々に移行していたってことで。だから、チハルさんは――」


 黒木は一旦、そこで言葉を切った。


「……?」


 そして、また黒木はグラスを空にする。


「この後の話は、はっきり言って……胸糞が悪いぜ」

「私なら、平気……だから、続けて」


 サラは覚悟を胸に、そう答えた。

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