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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?

 事無きを得た、という表現が正しいものかは知れないけど。微妙な雰囲気に包まれた二人の食卓を、ともかくなんとかやり過ごしていた。

 そうして、それは――その夜の未明のことだ。

 自分の部屋のベッドで寝息を立てていた俊太は、微睡の中でその声を耳にしている。



 ――トゥ、ユー♪



 深夜の静寂(しじま)で、その妙な調べはひっそり、しかし印象的に音を連ねてくる。


「……?」


 脳裏に直接それを届けられたような錯覚があり、俊太はまだそれを夢の中の出来事と区別することができなかった。

 しかし――



 ハッピーバースデー、トゥ、ユー♪



 誰かが、唄って……?


 ゆっくり朗々と奏でられる歌声に、俊太は寝ぼけ半分で薄く目を開いた。

 すると――


「チ、チハル……さん?」


 それは、おそらくはロウソクの灯火。その心許なく揺れる灯りの中で、その顔が静かな微笑みを浮かべていた。俊太を見つめて、祝いの唄を口ずさんでゆく。



 ハッピーバースデー、ディア、俊ちゃん♪



 正直、俊太はギョッとしていた。何事なのかと思った。しかしそれ以上の違和感を、異変を――俊太は自分自身の身体に覚えてしまう。

 それは最初に――


 さ、寒いのに……熱い……?


 と、そんな奇妙な感覚をもたらしていた。

 そしてようやく開きかけた目で、俊太はその光景を目撃した。


 シュッ――シュッ――。


 艶めかしく小刻みに、そうでありながら容赦のない動き。チハルさんの右手が“なにか”を頻りと上下に擦り上げてゆく。

 その“なにか”を――なんであるか認識して。


「あ……あ……」


 俊太は恥辱にも似た、その声を洩らした。

 足元が涼しいのは、なにも履いていないから。そしてそれに反するように、既に直立した一部分が覚えのないくらい――熱くなって。

 その一部始終を目撃しながらも、俊太はそれが自分の身体であることと、加え“そうさせて”いるのがチハルさんのしなやかな指先であることが、不思議で堪らなかった。


「な……なんで? や、やめてよ」


 俊太のその言葉を、まるで意に介することなく。



 ハッピーバースデー、トゥ、ユー♪



 チハルさんは虚ろな瞳でそう歌い上げると、俊太の熱くて硬くて恥ずかしい箇所を何度何度も擦り続けていた。

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