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【Onlooker】~サラが見たもの~
第9章 委ねられる、人生?

 俊太はチハルさんの“色(感情)のない瞳”を見て――冗談ではないのだな――と、漠然と思っていた。

 そう、チハルさんは本気だ。本気で死のうと――否、死んでしまってもいいと思っている。本気ではあるけれど、きっと正気ではなかった。どうでもいいのだと、投げやりなのかもしれない。

 ともかく、そんな姿を前にして、俊太は慌てた。そして、叫ぶ。


「やめてよ――!」

「どうして――?」


 ほぼ同時に、そう切り返された。

 問われたのは、死んではいけない理由――なのか?

 そんなものを考えなければならない人は、この世の中にどれくらいいることだろう。大半の人は、そんなこと考えることなく生きるのに忙しいはずだ。


「私のことなんて、誰も……俊ちゃんだって、相手にしてくれないじゃない。それなら、もう……死んでしまっても、いいかって……そんな風に思ったとしても、当然じゃないのかな?」


 俊太を見つめたチハルさんの片方の目は、とてもくすんでいるように見えて。光の反射のないそれは、精気を全く感じさせない。

 そのように病んだ目が、この世にあるのだと知り。それを持つのがチハルさんである事実が、俊太にはどうしようもなくやるせなかった。

 だから涙を流し、気持ちのままに訴えるしかない――。


「僕は……チハルさんがいてくれたから、今こうしていられる。チハルさんがいてくれなかったら、きっと……死んでいたのは僕の方なんだ」

「俊……ちゃん?」


 ハッとなにかに気づいたように、チハルさんの瞳に光が戻ってゆく。揺らいだ表層が濡れて、俊太に共鳴するように涙を流し始めた。

 その期を逃さずに――


「やっと普通の生活ができたのも、チハルさんのお蔭――だから、こんなこと――もう、やめようよ!」


 俊太は強く言葉を連ねながら傍らに立つと、呆然と見上げたチハルさんの手から包丁を取り去っていた。

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