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隷吏たちのるつぼ
第2章  第一章 醒めゆく悪夢
 男は奇声を上げ、智咲の頭を揺さぶった。あまりの暴威に反射的に頬を窄めると、濃厚な味覚が頬の裏と舌の上を刺してきた。

 腕は男の腹から離れ、ダラリと降ろされていた。噛みちぎってやろうという発想も気力も失せていた。

「イ、イクぞっ……。その可愛らしいオクチの中に、ぶちまけてやるっ」
「ンーッ……!!」

 雄叫びとともに、舌の上へ低劣な粘液がどぶどぶと迸ってきた。脳を麻痺させたニオイを数十倍、数百倍濃密にした酷烈な口当たり。否応なく分泌してくる唾液に希釈されて、食道へ流れ込んでこようとするのを、えづきによって体が懸命に拒絶していた。

「ふくっ……、は、初フェラだったんだろぉ? ぎこちなさでわかったぜ」

 最後の一滴まで迸出した男が亀頭を引き抜くと、

「……ぐ、……おええぇ……」

 智咲はすぐに白濁をシーツの上へ吐き出した。涙どころか洟水も出てきた。舌や頬裏、口蓋にすらへばりついている妄覚に、何度も唾を吐き捨てる。

「よく頑張ったねぇ?」

 男が取り憑かれたように吐瀉している智咲の傍に膝をつき、その張本人のくせに、肩に手を添えて慰めてきた。

 今まで人に暴力をふるいたいと思ったことはなかった。だが智咲は、殺意にまで発展しそうな衝動に駆られて、キッと顔を上げた。

 思いのほか、顔が近かった。
 サングラスのレンズの中の自分と目が合った刹那、見えなくなった。

「おむん……」

 体液を注ぎ入れたばかりにもかかわらず、男は躊躇なく智咲の唇へしゃぶりついてきた。精臭は入念に吐いた唾液でずいぶん薄まっている。代わりに、今まで無頓着な男と話す際にふと漂ってきて、内心ウンザリさせられていた強臭がダイレクトに広がった。

「ううっ、おえっ、……ふっ、む」

 眉根を寄せて抗おうとするも、強く抱きしめられていた。

 強制口淫よりも、この日の暴虐の中で、キスが一番不快だったかもしれない。
 悪夢がよみがえる時、きまってキスの場面だけは再現されなかった。詳しく思い出すと気が狂ってしまうから、防衛機制が働いていたのだろうか。

 しかし、なぜか今見る夢は、唇に粘着する軟体の感触も、鼻をもぎ、吐き気を催す口臭も、生々しく再現していた。
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