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隷吏たちのるつぼ
第4章  第三章 詭謀の酬い
第三章 詭謀の酬い





 悠香梨はボールペンでメモ用紙を何度も突き叩いていた。電話の相手の話は、体調がどうだの、身内の冠婚葬祭がどうだの、メモるべきことは何一つなかった。

 市営住宅家賃滞納整理事務処理要綱。いかにもお役所らしい、一見しただけでは何を言いたいのかわからない決まり事に則って業務を行う。

 滞納者へ督促の電話をかけると、言い訳が始まり、次に居直り、最後には逆ギレを起こすのが常だった。素直に応じる者はまずいない。

 この電話に何の意味があるのか先輩に問えば、電話をしていることじたいに意味があるのだそうだ。要綱に従うのなら、長期にわたって納付に応じない者に対しては、問答無用で明け渡しに向けた法的措置へと走ることができる。しかし、いきなりそんなことをすれば、やれ市民生活を無視した血も涙もない仕事ぶりだ、と情報開示請求がやってくるだろう。余計な仕事を増やさないために、電話でもちゃんと通達してますよ、という履歴を残していっているのだ。

 市民サービスに直接携わる市営住宅課を言い渡された時、同期たちには同情された。しかし悠香梨としては、役所職員のキャリアで必ず回ってくる市民サービス業務を、早いうちに経験しておくのは悪いことではないと思っていた。
 とはいえ、そう自分に言い聞かせたとしても、ストレスを完全に逃がせるわけではない。まずはパチンコ行くのやめろよ──配属されて一ヶ月、いつの間にか音の鳴らない舌打ちができるようになっていた。

「とにかく呼出状が届きますので、印鑑をご持参のうえ、窓口にいらっしゃってください。よろしくお願いします」

 グチグチ言ってくる相手を遮って、電話を切った。わかってはいたが、滞納に関わる業務は「善良」とは言えない市民を相手にすることが多い。しかしここまでくると、善良な市民はNにはいないのではないかとすら思えてくる。

 ちょっと市職員として問題ある思想だ。深く考えると本当に病む。とにかく次。

 残りのリストの多さに暗い気持ちで受話器を上げると、

「おっす!」

 と大声が聞こえてきた。
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