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緑に睡る 〜運命の森〜
第1章 告白
紳一郎は余り詮索されたくなくて、淡々と説明をした。
「青山さんは父様と大学が同窓で今、家に滞在している。ご実家が立て替えで仮住まいが手狭らしい」
「…へえ…」
伊勢谷は眼を細めた。
「なんだよ」
剣呑と眉を上げる紳一郎に、秘密を告白するかのように貌を近づける。
「…青山さんはゲイだ。…貞操に気をつけろよ」
紳一郎は唇を歪め、肘鉄を喰らわす。
「痛ッ!」
呻いて前屈みになる伊勢谷を置いて歩き出した紳一郎に、礼拝堂の入り口に立つ尼僧が癇性な声で注意する。
「ムッシュー・鷹司、ムッシュー・伊勢谷、もうミサが始まりますよ!」
足早に礼拝堂に急ぐ。
追いついた伊勢谷が、尼僧に甘く微笑みかける。
「シスター・マルガレーテ。ご機嫌よう。…今日も実にお美しいですね。…まるで冬に咲くウィンターローズのようだ」
尼僧の手を取り、甲にくちづける伊勢谷の調子の良さに呆れる。
中に入るときにちらりと眼を遣ると、尼僧の能面のように硬質な横顔に朱が刷かれていたのを確かに認めた。

礼拝堂の中に足を踏み入れると、すでに聖歌の合唱が始まっていた。
強面の尼僧に睨まれながら席に着く。

壇上の聖歌隊の列に縣 薫が白い礼服を身に付け、合唱しているのが見えた。
…ここから眺めると天使のような美貌だ。

薫は遅れてきた紳一郎に意味あり気に眼を見張ってみたせた。
紳一郎は肩を竦めて、ジャケットの胸ポケットから聖書を取り出した。
…その刹那、昨夜十市に噛まれたうなじがちりりと疼いた。
紳一郎は胸を甘くときめかせながら、そっとうなじに触れる。

…本当に嫌だった?
青山の声と面影が不意に過ぎり、紳一郎は慌てて聖書を開き、合唱に加わった。

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