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秘密のピアノレッスン
第16章 呪縛から
このあたりでは誰もが知っている衣笠クリニック。
先生は、同級生が営んでいるというこのクリニックに連絡をしてくれた。

腕のいい院長が切り盛りしていることで有名だが、車で到着するとその息子さんが出てくれた。
普段は総合病院で勤務医をしていて、週に一度だけここで診察をしているようだ。


「大丈夫だよ。おそらく傷は残らないと思うよ。出血が多くてびっくりしただろうけれど、傷口は深くはないし、すぐ塞がるはずだから。縫わないでおくね」

診察終了の札がかかった診察室で、明るい息子先生に手早く処置してもらう。
息子先生は白衣は着ずにジャージ姿で傷を見てくれている。

「……ごめん。こんな時間に」
「今日はオフでよかったよ。奏馬の頼みごとなんて初めてだな!」

先生が申し訳なさそうに息子先生に頭を下げると、笑いながら背中をバンバンと叩かれていた。

「内出血してるから、しばらく痣になるかもしれないけど消えるよ。しかし君、可愛い顔しておっちょこちょいだなぁ」

どうやら、先生と息子先生の間では、私はどこかに頭をぶつけたことになっているらしい。
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