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秘密のピアノレッスン
第19章 鳥籠
「ちょっとあったかくなったかなぁ……」

カーテンを開けながら、寒さの中にも春の訪れを感じる柔らかな陽光に目を細める。

目元の痣は消え、傷も閉じて、おおよそ元通りになりつつある。
人間の回復力ってすごいんだなあと素直に感心するほどだった。

また診せに来てね、と先生の友達に言われていたけれど、それは果たしていない。
今は家から出ることができない。いや、出る気力がないと言ったほうがいいのかもしれない。
先生にもらった携帯や財布が取り上げられ、玄関からは私の靴が消えている。

パパが日本にいるのは明日まで。
私は明日、パパと一緒にカナダへ行かなければならない。


昔々、おじいちゃま――パパのお父さんは、この街の議員だった。
パパもいずれはここに戻ってきて、そういう道を歩むのかもしれない。
その時のために、地元でトラブルを起こすわけにはいかないのだろう。
私や、ママのいざこざ隠さなければならないのだろう。だから、ほとぼりが冷めるまで私をカナダへ連れていくのかもしれない。


先生に会いたい。
会って滅茶苦茶に触れて欲しい。
黒く重く渦巻く不安に押しつぶされそうになりながら、端が少し擦り切れた楽譜をレッスンバッグから取り出した。

愛の夢。
先生が使ってたこの楽譜は、私が持ったまま。
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