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秘密のピアノレッスン
第4章 淡い思い
先生のソーサーにカップが置かれる。その指先を目で追いながら、返事をした。

「はい。内部進学なので……そのまま女子大に上がるつもりです」
「どんな学部に進むの?」
「一応、教育学部に……」
「へえ。先生になるの?」

身を乗り出す先生の肌の香りを感じてどきりとする。
こんな些細なことでドキドキしているのを気付かれないようにと願い、小さく、頷いた。

本当は、教師には興味がない。母が決めたからそうするだけで。
私なんて、今、先生が身を乗り出してくれたのが嬉しくて頷いただけの、からっぽな人間なのに、先生はいつもより穏やかな笑顔で話してくれた。

「僕も教師になりたかったな。結局音大に進んだけど、同じぐらい数学も好きだったから」

「そうなんですか?」

てっきり、迷うことなく好きな道に進んだのかと……。

美しく、見ていて飽きない、先生と同じ柄のコーヒーカップを持ち上げ、ほろ苦いコーヒーをこくりと飲んだ。先生は頬杖をついて、独り言のようにつぶやいた。

「みんな、迷うものだよ。迷って当たり前なんだ」

ぽつりと出た先生の言葉が、甘く心に滲みていく。

「大丈夫」と言われている気がして、潤む瞳をどうやって隠せばいいのかと迷ったけれど、先生はずっと窓の外を眺めていたから、涙を見られずに済んだ。
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