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秘密のピアノレッスン
第1章 イントロダクション
「……ごめんなさい……」

ろくな返事もできない私に苛立ちを見せ、私のことなどまるで価値のない物のように、母は温度のない眼差しを向けて部屋を出て行った。

ドアが閉まる音が聞こえるまで泣いてはいけない。母に、泣いているのがバレてはいけない。
「何泣いているの!」と叱られて、今以上に嫌われてしまう。

それでも溢れてしまった涙を指で拭いながら、白亜の壁に掛かっているくまの時計を見上げ、時刻を確かめた。


今日は木曜日だから、ピアノのレッスンに行かなくちゃ。

赤く潤んだ瞳で、鏡の中の情けない顔を見つめながら、セーラーの襟に結ばれていた紺色のスカーフをするりと解いた。

滝沢更紗。高校3年生。

小学校6年生の時、言われるままに、ママの決めた私立中学を受験して合格した。
近所にある中高一貫の女子校に通っているけれど、本当に仲のいい友達は……いない。
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