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どうか、その声をもう一度
第5章 ひびのおと

今朝、店に着いてから諒と話をして明日は休みを取らせてもうらことにした。彩夏に連絡を入れると、今日は会社の子たちとパーティーをするから自分のことは気にしないでくれと、シュトーレンを楽しみにしてるから明日は一緒に食べようとのことだった。

結局、諒も俺に便乗して1本を買い取り、無事にノルマを達成。大急ぎで業務をこなし、店を出たのは予測より少し遅れた16時30分だ。

約束を取り付けた時点できちんと連絡先を交換していたらしく、電車に乗ってから諒が例の彼女に連絡を入れていた。間を置かず届いた返事には彼女は既に待ち合わせ場所に到着しているとあった。

落ち着かない様子の諒と連れ立って辿り着いたのはイルミネーションに彩られた野外スケート場を中央に、フレンチやら、イタリアンやらと数々の飲食店が立ち並ぶ雑誌やテレビなどでよく聞く『クリスマスにおすすめのデートスポット』ともてはやされている場所だ。

彩夏もこういうところに来たかっただろうかと思うと、胸の奥がずきずきと痛む。

「…手汗がやばいです」
「拭いとけ」

こういう風にそわそわしている諒は初めてだ。いつも飄々としていて、手際よく仕事をこなす彼がきょろきょろと辺りを見回す姿をぼんやり見つめる。ふと諒が手を振った先へ視線をやると何度も見かけた事のある小柄な例の女の子と共に沙英がどこか戸惑ったような顔つきで近付いてくるのが見えた。

「初めまして、でいいですかね。毛利ナツメです。こっちは会社の先輩の岩永沙英さんです」

俺たちの傍までやってくるとたまごサンドの彼女、もとい毛利ナツメはぺこりと頭を下げてから沙英のことを紹介した。俺が声をかけようとすると沙英は怒ったように眉間に皺を寄せてナツメちゃんの腕を引き、俺たちに背中を向けた。

スマートフォンを取り出し、文字を入力しているようだった。ナツメちゃんはそれを見て、沙英に平謝りをしている。黙っててごめんなさいだとかそんなような声が聞こえてくる。
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