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くすくす姫と百人の婚約者(フィアンセ)
第16章 弟王子と義妹姫
「お義姉様、大丈夫ですか?」
スグリ姫の嘘泣きが佳境に入る頃、部屋の重厚な扉が開き。
小鳥が囀るような愛くるしい声が、聞こえてきました。

「うわーん!!レンブぅ~!!!」
愛くるしい声と共に現れたのは、ハンダマ王子の婚約者の、レンブ姫でした。

レンブ姫は、隣国の第三皇女にして末っ子。
売り手市場真っ只中の、18歳です。
誰もが魅了されずには居られない可愛らしさと要領の良さを武器に、近隣諸国で一番人気の結婚相手を射止めた、ゆるふわの皮を被ったしっかり者。
秋口のお輿入れを前に、「嫁ぎ先の国の風習を学ぶため」という名目で、現在この城に短期滞在中なのです。
ちなみに念のため言っておきますが、「近隣諸国で一番人気の結婚相手」というのは、ハンダマ王子のことです。
姉を弄ることが趣味のようなこの王子が近隣諸国の姫の間で一番人気というのは、ちょっと、信じ難いかもしれませんね。
しかし、人間と言うものは、得てして身内に厳しいもの。
または、外では猫を被るものなのです。
・・・閑話休題。

「もうさー、私も男になるよ。男だったら大丈夫だろうから、私も嫁もらうよ」
おいでおいで、と手招きして、とことこ近づいてきたレンブ姫の頭を撫で撫でしながら、気だるそうにスグリ姫が言いました。

「姫様、何バカなこと言ってんですか」
“男だったら大丈夫”という訳の分からない理屈に冷たい視線を向けるバンシルと、無言で突き刺さるような嫉妬の視線を向けてくる弟ハンダマを無視して、スグリ姫はレンブに抱きつきました。

「あーん、レンブぅ~!!!私のとこに嫁に来ようよぉ~!!」
「うん姉様ちょっとそこの決闘場まで片道切符の散歩しようか」
初夏の爽やかさをかき消す嫉妬ブリザードを出現させたハンダマ王子。
危うし、スグリ姫。
ところが、そんな無益な戦いを余所に、レンブ姫はころころと笑い声を上げました。

「義姉さまぁ、無理ですぅ。私は、ハンダマ様のお嫁さんに、なるんですものっ」

最後の“っ”のところで愛する王子に流し目を送りつつ頬をぽっと染めるという高等技術を織り交ぜて、レンブ姫はスグリ姫のくだらない提案と、王子の嫉妬ブリザードを、吹き飛ばしました。
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