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あの星に届かなくても
第2章 いびつな日常

 ここの男性ユーザーは、本気で出会いを求める者や純粋にチャットを楽しみたい者よりも、セックスフレンドや不倫相手を募集する者が圧倒的に多い。本当に恋人や結婚相手を探したい者なら、会員制の有料出会い系サイトに登録するだろう。目的の違う紗恵にとっては、そうでない者の多い無料アプリのほうが都合がいい。
 三十代以上の人妻は、それ以外の女性より割り切った関係を結びやすいと思われているのかもしれない。それゆえ声をかけられる確率は高いが、いきなり卑猥な言葉をかけてくる輩も少なくない。このM――名前の頭文字なのか、性的嗜好の意味なのかはわからない――はまだマシなほうだ。セックスの前に“お話し”してくれるというのだから。
 だが最初は紳士ぶっていても、最終的な目的はみな同じだ。彼らのわかりやすい欲を嫌悪していたら、こちらの目的は果たせない。

 この小さな町に移り住み、人知れずこの仕事を始めて半年――。もう慣れたことだ。心の痛覚はとっくに麻痺している。
 アプリでターゲットの目星をつけ、餌をまいて男を誘い出し、セックスをしてその精液を盗み取る。男のほうも性欲が満たされ、互いの目的は果たされる。それが紗恵のやり方だ。

 何通ものトークを順に片づけていきながら、ふと紗恵は思った。条件に見合いそうな男が一人、身近にいるではないかと。瞬間、慧子の純粋な瞳が脳裏によみがえる。

「……先手必勝よ」

 残酷な考えを後押しするように呟き、紗恵は再びボトルに手を伸ばした。

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