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甘党な愛
第12章 十二

 その晩、入浴を済ませパジャマ姿で二階へ上がろうとしていると、廊下で後嶋と擦れ違った。

「あ、後嶋、おかえり!」

「ただいま……」

「寒かっただろ?お風呂沸いてるから!」

「ありがとう……」

 バイト終わりだろう。そのまま私服姿の後嶋へ話し掛け、私は階段を上ろうとする。が、後嶋から呼び止められると、後嶋の方を振り返った。

「藤咲さん」

「何?」

「一つ、言っておきたいんだけど……」

「何?」

 後嶋から話し掛けてくるなんて珍しい。相変わらず無表情で何を考えているのか分からないが。私が質問すると、後嶋はすぐに答えた。

「八雲君は好きにならない方が良いよ……」

「……」

 急に何を言い出すんだろう。八雲のことを好きにならない方が良いと言われても……どう考えたって、好きになるわけないだろ。

「後嶋……何でそんなことを言うの?」

「何となく。八雲君にはさ、ちゃんと婚約者がいるから。好きになったら藤咲さんが辛い思いすると思って」

 衝撃的だった。後嶋の話を聞いた瞬間、思考が停止していた。……八雲に婚約者?……まあ、金持ちの息子だし、いてもおかしくないかもしれない。けど、八雲になんて。

「八雲君怒るかもしれないけど……八雲君がここへ来たのって、婚約者の浮気相手に暴力ふるって病院送りにしたからなんだ。八雲君と婚約者の親が怒って、暫く頭冷やせって……」

「そうだったんだ……」

「俺、藤咲さんにだから話したんだよ」

 ぼーっとしながら話を聞き、後嶋が近づいてきていると分かっても立ち尽くしていた。


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