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蛍の想ひ人
第7章 人
月明かりがホテルの部屋を照らすなか、
由布子さんは俺の腕の中で眠りに着いた。

俺はいつまでたっても眠れずにいた。

あの日―――
あの海で、海に投げ入れた小さな包みは、きっと由布子さんの兄貴への最後のチョコだ。

夕日の逆光で暗くなった由布子さんの後姿にまとわりついていた小さな光は
やっぱり蛍だと思う。

例え、季節外れであろうと、そこが海であろうと
あれは蛍だった。

そして、あの蛍は兄貴だった。

最後の別れを告げた由布子さんに兄貴も最後の別れに来たんだ。

2人は本当に。本当にお似合いだった。

由布子さんを『ナツ』と呼んでしまったあれは
何度考えても分からない。

何で兄貴を思い出させるような呼び方をしてしまったのか。

あれも―――きっと兄貴の仕業なんだと思う。
こう呼んだ時、由布子さんの反応と俺の自己嫌悪と。
兄貴が最後に俺に課した挑戦状だったんだ。

あの時、夕陽の光で眩しかった俺の顔は
呼び方だけじゃなくて
由布子さんには本当に兄貴に見えていたんだろう。
由布子さんの目には俺の顔が兄貴として映っていたに違いない。

「ひどいな、兄貴」
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