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籠鳥 ~溺愛~
第29章
黙りこくる美冬の背を軽く押して歩き出した鏡哉が口を開く。
「話をしたいから、車に乗って」
助手席のドアを開けられ、美冬は静かに乗り込んだ。
ドアを閉めた鏡哉が運転席に収まり、ベンツを発進させる。
静かなモーター音しかしない車内で、二人は無口だった。
心の準備ができていない美冬だったが、無表情で運転をしている鏡哉を目の端で確認すると徐々に気持ちが落ち着いてきた。
まず真っ先に思ったのは、鏡哉は何をしに来たのだろうかということだった。
三年半という、自分にとっては長い空白時間を経て。
『会いたかった……』
確かに鏡哉はそう言った。
とても苦しそうな表情で。
「………」
近くの高校の前を通り、校門が目に入る。
ぎゅうと胸が締め付けられる。
あれからずっと毎日校門をくぐるのが辛くて、苦しくて。
勝手に期待しては裏切られ。
私は――、
(私は今、彼に会いたかっただろうか……)
自分の気持ちが分からなくて、美冬は俯く。
鏡哉は話がしたいとも言っていた。
(………何を?)
今更何を話そうというのだろう。
混濁した思考の中で考えを巡らせた美冬は、膝に置いたバックをギュッと握りしめた。
(そっか……あれ、まだサインしてなかった)
思い出したそれに、俯いた美冬の顔が歪む。
何をバカなことを期待していたのだろう。
(鏡哉さんがまだ自分を愛していて、迎えに来てくれたんだって――)
あまりの自分の愚かさに、目頭が熱くなる。
涙を我慢しようと顔を上げた美冬だったが、ベンツが走っている場所を見て一瞬で固まった。
(ここ――)
呆然とする美冬に反し、車は地下駐車場へと入っていく。
前と変わらない所定の場所に停車した鏡哉はサイドブレーキを引き、ゆっくりと助手席の美冬を見た。
「込み入った話になると思ってマンションにしたんだが……嫌だったらどこか個室のレストランでもとろうか?」
困惑した美冬の表情に気付いたのだろう、鏡哉は外にしようかと譲歩してきた。
美冬は戸惑った。
一緒に生活していた部屋に入るのは今の自分には辛いが、だからと言ってわざわざ今からレストランを予約させるのも気が引ける。
(二人の関係を口外しない契約書にサインをするだけなのに……)