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籠鳥 ~溺愛~
第32章
「美冬……昨日は話せなかったから、今晩もう一度会いたいんだけど……」
「……今日は、夕方から明け方までバイトで……」
申し訳なさそうにそう言う美冬にいつなら都合がつきそうかと問えば、明後日の夕方からならばと返事が返ってきた。
「じゃあそうしよう。18時半に大学に迎えに行くけれど、それで大丈夫?」
「はい……」
美冬と再度会う約束を取り付けた鏡哉は心底ほっとし、もう一度美冬の頭を撫でると出勤の支度をするため部屋に備え付けのバスルームへと消えた。
シャワーを浴び寝室へと戻ると、やはり足腰が立たずに疲労がピークに達していたのだろう、美冬はすやすやと寝息を立てて寝ていた。
スーツとコートを着込んで準備を済ますと起こさないように美冬の額にキスを落とし、鏡哉はマンションから出た。
12月の乾燥した冷気が纏わりついたのも束の間、リムジンに乗り込むとすぐに暖かさに包まれる。
そしていつもなら助手席に乗る高柳が、何故か今日に限っては鏡哉に続いて後部座席に乗ってきた。
たまに仕事の話をするときに後ろに乗るので特に気にせず車を出させる。
「おはようございます、社長」
「ああ」
挨拶をした後数分しても仕事の話をしてこない高柳を見やると、にこりと笑いかけてきた。
「なんだ?」
男に笑いかけられても……と少々気持ち悪く思いながら高柳に問う。
「いえ。これでインド行きも中国行きも無しになったなと思いまして」
「………」
一瞬何のことを言われたのか分からなかった鏡哉だが、取締役に言われた次の転勤先候補のことだと気づき口をつぐむ。
「おや……美冬ちゃんに会えたのでしょう?」
「お前……」
昨日美冬に会いに行くことを高柳に言った覚えは勿論ない。
だから今日は珍しく迎えの車に乗っているのかと納得した鏡哉は、自分に発信器でも取り付けられているのではと少しだけ疑った。
「おめでとうございます。ふ……婚約も時間の問題ですかね」
嬉しそうにそう言った高柳から視線を外した鏡哉は、窓の外へと視線を移し沈黙する。
「……さあ、どうだろうな」
数十秒後ようやく口を開いた鏡哉に、高柳が不思議そうに首を傾げる。
「昨夜話し合えたのでしょう?」
「………」
「……なにやってるんですか」