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籠鳥 ~溺愛~
第35章
少し驚いたようなその声に、美冬の口元が綻ぶ。
離れているときは毎日一回は電話をし合っているけれど、彼が日本にいる時とそうでない時とではやはり安心感が違う。
「鏡哉さんこそ。帰り早まったんですね」
『本当は今日の朝の便で帰りたかったんだけど。美冬の袴姿見逃した』
とても悔しそうにそう言う鏡哉がおかしくて、美冬はくすくすと笑う。
「写真いっぱい取り合いっこしましたから」
『楽しみにしてる。それよりメールした通り、二次会終わる頃に迎えに行くから』
「大丈夫ですよ、タクシーで帰ります。それに二次会は行きません」
今日帰ってきたばかりの疲れている鏡哉に迎えに来てもらうなど申し訳なくて、美冬は断る。
『え……今日で最後なんだから、行って来れば?』
「大丈夫です。私の友達はほとんど大学院へ進みますから」
美冬はこの春大学課程を無事修了し、春から同大学の法科大学院へと進学が決まっていた。
『本当に? 無理していないか?』
「無理なんてしていません。鏡哉さんに……は、早く会いたいし」
どもりながらそう言った美冬に、電話先の鏡哉のくすりと笑う声が聞こえる。
『ならなおさら迎えに行くよ。今会社だから通り道だし』
美冬は何度も大丈夫だと言ったが、鏡哉は『ロビーで待っているように』と言うと一方的に電話を切った。
言い出したら聞かない鏡哉に苦笑すると、美冬は会場へと戻った。
その後、結構しつこく幹事の男子達から二次会へと誘われたが、美冬はこの後用事があるからと断った。
謝恩会もお開きになり、二次会へ行く友達をロビーで見送り喧騒から解放され、手近なソファーへと腰を下ろす。
少し体が火照って熱かった。
シャンパンを三杯飲んだくらいだったが、お酒に酔ったというよりは人に酔った感じだった。
ふうと息を吐き出して時計を見たとき、上から男の声が降ってきた。
「鈴木さん、二次会行かないの?」
顔を上げると何度か会話を交わしたことのある男子が立っていた。
美冬は立ち上がると背の高い男を見上げる。
「田宮君。うん、もう帰ろうと思って」
「ええ! 鈴木さん来ないなら男子全員がっかりするって」
大げさにそう言ってくる田宮に愛想笑いをしてかわそうとしたが、彼は不満そうな顔をする。