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籠鳥 ~溺愛~
第35章
美冬は婚約指輪をめったにしなかった、大学にして行く訳にもいかなかったし如何せんこんな高級な指輪に傷でも付けてしまったら……と気になって日常生活が送れなくなるからだ。
インドでの話を男二人から聞いていると、程なくマンションのエントランスへと車が到着した。
ドアマンがトランクからスーツケースを取出してくれるのを横目で見ていると、高柳が美冬に近づいてくる。
「美冬ちゃん、社長は明日お休みだから。まあ、頑張って」
「高柳さん?」
何を頑張るのかと思い高柳を見上げたが、高柳は鏡哉に一礼してリムジンで去って行った。
「美冬?」
リムジンを見送ったまま動かない美冬を鏡哉が呼びかける。
「あ、ごめんなさい」
鏡哉を追いかけてエレベーターに乗り込み、部屋へと向かう。
部屋の扉を開けて中に一歩踏み入れいた瞬間、鏡哉が後ろから美冬を抱きしめた。
「あ〜……やっと美冬に会えた」
大きく息を吐き出してそう零す鏡哉に、腕の中の美冬も彼に身を任せて久しぶりの抱擁に瞼を閉じる。
スプリングコート越しに感じる鏡哉の逞しい胸と腕に抱かれていると、慌ただしかった今日一日の疲れが飛んでいくようだった。
「お疲れ様でした。お帰りなさい」
「うん、ただいま」
その声は振り向いて彼の顔を見なくても表情が分かるほど、幸せそうな声だった。
ゆっくりと腕を解いた鏡哉と連れ立ってリビングへと入ると、美冬は着替えて鏡哉にお茶を出そうと私室へと向かう。
しかしその手を鏡哉に引っ張られた。
「待った。袴姿見られなかったから、せめてドレス姿だけでも見せて」
まるで強請るようにそう言う鏡哉に苦笑して、美冬はコートを脱ぐ。
自分が見立てたドレスを完璧に着こなす美冬に、鏡哉が満足そうに頷く。
「綺麗だよ。清楚な美冬によく似合ってる。ちょっと化粧してる?」
綺麗だと褒められ、美冬はくすぐったくなる。
「はい。友達と一緒に美容室へ行って、髪もセットしてもらいました」
美冬は当初美容室に行くつもりはなかったが、友人達に半ば強制的に予約を入れさせられたのだ。
しかし今となってはそれで正解だったと思う。
謝恩会に来た女子達はみな凄く着飾っており、メイクもヘアスタイリングもばっちりだった。