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籠鳥 ~溺愛~
第35章                       

 鏡哉に与えられるばかりで甘えることしか出来ない自分に。

 少なくとも彼と対等な自分にならない限り、結婚だなんて考えられなかったのだ。

 けれど大学卒業を目の前に、そうした自分に疑問を持ち始めた。

 美冬が弱気になっている時でも、鏡哉は温かい目で見守ってくれた。

 上手くいかない自分に苦しんでいる時でも、鏡哉は静かに傍にいてくれた。

 ただ傍にいることしかできない自分なのに、鏡哉はいつも幸せそうに笑ってくれていた。

 それに気づいたとき、目から鱗が零れ落ちるようだった。

 自分は全然完璧じゃないけれど、鏡哉はそれを受け入れてくれていた。

(ただ自分がこだわっていただけだったのだ――完璧な自分にならないと鏡哉さんに相応しくないと)

 やっとそう気づいたのは卒業を目の前に控えた数日前だった。  

 だから鏡哉が帰ってくる明日、まずそのことを伝えようと思っていたのだ。

 美冬は自分の頭に添えられた鏡哉の大きな掌を握った。

「貴方を愛しているから、私は貴方を一人ぼっちにはしない」

 美冬はそう呟くと、見下ろしてくる鏡哉ににこりと笑う。

 暗い色を湛えた鏡哉の瞳が少しずつ見開かれる。

「長い間、待たせてしまってごめんなさい。いつも回り道ばかりして、ごめんなさい」

「美冬……?」

 鏡哉の形のいい唇が、震えながら自分の名を呼ぶ。 

「これからもいっぱい迷惑をかけると思うけれど、それでも私は貴方と一緒にいたい――」

「………」

 もはや鏡哉は無言で美冬を見つめていた。

 美冬は覚悟を決めるように瞼をつむる。

 そして大きく息を吐き出すと、ゆっくりと瞼を開いた。

「私を貴方のお嫁さんにしてください」

 寝室に美冬の凛とした声が響く。

 頭に添えられた鏡哉の掌にぐっと力が込められたと思ったら、美冬はその胸に引き寄せられた。 

 スーツ越しに驚くほど早鐘を打つ鏡哉の心音が聞こえる。

 背中に回された腕が苦しいほど美冬を抱きしめてくる。

 美冬の言葉にしばらく何も発しない鏡哉に、美冬は徐々に不安になってきた。

「き、鏡哉さん……?」

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