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スグリ姫の試練(くすくす姫後日談・その3)
第1章 一週目
バンシルが出て行ったあと。
しばらくもぞもぞしていた姫は、枕の下に手を突っ込んで、小さな袋を取り出しました。
顔を寄せると、懐かしい暖かい匂いがします。
姫はその香りをすうっと吸い込んで、それを渡された時のことを思い出しました。


サクナが出発直前に、暇乞いの挨拶に来たときのことでした。
「頼みがある」
「なあに?」
サクナは何度か躊躇った末に、言い難そうにいいました。
「…髪を一房くれねぇか」
「髪?」
姫が聞き返すと、いつもの不機嫌そうな顔が、決まり悪げになりました。
「…触ってると落ち着くんだよ」
「分かった。」
姫はくすりと笑って頷いて、裁縫道具の箱の中から、リボンと裁ち鋏を取り出しました。
鏡を見ながら一房髪を取り分けて、リボンできゅっと固く結ぶと、結んだ上の辺りから、鋏でざっくり切り取りました。

「これでいい?」
「…随分豪快に切ったな…」
自分が頼んだことでしたが、姫が予想外に思い切り良く切ったので、サクナは少々驚きました。
「すぐ伸びるわ、バンシルには結いにくいって怒られそうだけど」
部分的に短くなった髪で裁ち鋏を仕舞う姫を見て、サクナはすまねぇ、と謝りました。
「…変なこと言い出す変な奴だと思ってるだろ」
「ううん」
姫はもうすぐここを去ってしまう婚約者に、甘えるように抱き付きました。
「…私も変な奴よ?サクナの匂いで、落ち着くもの」
そう言われたサクナは、懐から袋を出して、姫に渡しました。
「じゃあ、髪と交換だな。これ持っとけ」
「あ。『非常食』?」
最初にそれを見せられたときに言われたことを思い出し、姫はふふっと笑いました。
「…食ってもいいぞ」
「食べないわよ。食べたら、無くなっちゃうもの」
姫は少し背伸びして、 ありがとう、と、婚約者に口づけました。その口づけはしばらく続き、いつまでも尽きない名残を断ち切るように、どちらからともなく終わらせました。

「ここで、見送ってもいい?」
「…ああ。」
泣いちゃうから、と言う姫を、サクナはぎゅっと抱き締めました。
少しの間そうしていましたが、離れがたい気持ちを振り切って、そっと手を離しました。
そして、じゃあな、と扉を開けて、部屋から去っていきました。
窓に駆け寄って外を見ると、しばらくしてサクナが出てきました。
こちらを見上げて少し笑って、手も振らないで背を向けて、そのまま歩いて行きました。
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