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アムネシアは蜜愛に花開く
第5章 Ⅳ 歪んだ溺恋と束の間の幸せ

 確かにそれぞれの恋人とまず話し合う必要はあると、巽も思ったようで言われるがまま隣の洋室に移り、ベッドの端に腰をかけている。その後ろ側で由奈さんが床に置いていたらしい大きな通勤バッグを持ち上げて、なにかをごそごそと探していたかと思うと、突如巽をベッドを突き飛ばし横に転がした。
 そして体勢を立て直そうとしている巽の両手を、素早く背後に捻るようにして取る。

 そういえば由奈さんは、よく痴漢に遭うからと護身術を習っていたらしいことを思い出すわたしの前で、バッグの中から取りだした金属製の手錠を両手首にかける。
 それに焦る巽の両足首にも手錠をかけて、慣れた手つきであっという間に巽を拘束してしまったのだ。

 手錠……なんで由奈さん、持っているの?
 警官ならまだしも一介の秘書で、痴漢の犯人捕まえるために必要だったとか?
 巽に、一体なにを……。

「ふざけんな、由奈。取れ!!」
「嫌よ。約束を破ったお仕置きをしなきゃ、お仕置きって嫌がることをすることで、効果があがるのよ」

 由奈さんが仰向きした巽の足の上に跨がって座ると同時に、由奈さんの顔だけがこちらに向けられる。
 いつものように微笑んでいるような美しいその顔にぞくりとするものを感じた時、わたしも怜二さんによって布団の上に転がされた。

 天井を背景に、見下ろす怜二さんが笑う。

「さあ、杏咲。よそ見をしないで、消毒をしようね」
 
 嗜虐的な笑顔をしながら、いつもの優しい口調でわたしに言う。
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