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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

「ところで藤城さんはどんな口紅を作りたいと思われていますか?」
「若返る口紅を」
「ほう? 即答なさいましたね」
「はい。専務が先ほど仰っていました。唇は大切な器官なのに、ケアを疎かにする方が多い。OLなどは何度も重ね塗りをしたりするので唇の皮膚が痛んでしまう。それを防ぐ美容的な口紅がいいのではないかなと。そのひとの人柄を表わす、美しい唇になれる口紅を作りたいと思いました」

 巽の口紅ついての熱弁に、感化されてしまったのは事実だ。
 蔑ろにしやすい口紅を美容品として開発してみたいと思わせたのは、巽の言葉なのだ。

「はは。斬新ではない無難な答えですが」
 
 ……ひと言、余計だと思う。

 そして巽は続けてこう付け加えた。

「ではまずはそれを含めて、百の企画書を作って来て下さい」
「ひゃ、百!?」
「はい。三日後までに。話は以上です」

 待て待て待て。
 なんだそれは。

 穏やかな専務になっても、口にしていることは無謀で強引な巽と変わらないではないか。
 こんな慇懃無礼で無謀な注文、厳しい怜二さんだって香代子にも課したこともないのに。

「あ、あの……せめて、十あたりに」

 情けなくも縋ってみる年上部下に、年下上司は一笑にして一蹴する。

「百でお願いします。アムネシアの企画部は、常にそれくらいの提案が出来るように教育されていますので、差分はつけません。差をつけるときは、アムネシアから追放する時だと思って頂きたい。瑞々しい感性を、アムネシア本社専務室にてお待ちしております」

 話を切り上げるようにして巽が立つから、不承不承それを受けざるをえなくなったわたしも立つ。
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