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イかせ屋…
第8章 決別



女の子に人気はあったけれど誰に対しても平等な態度の植草君のイメージしかない。

そんな植草君がお店を予約してるからと歩き出す。


「わざわざ予約?」

「俺の就職祝いだよ?」

「まさか私が払うの?」

「無職に奢って貰う気はないよ。杉田さんの就職祝いは奢ってよね?」


そんな冗談を言いながら歩く。

楽しいけれど、ちょっとしんどいとか思う。

植草君は話に夢中で私のスピードを考えてくれない。

昌さんなら…。

また、つまらない事を考えちゃった。

過去よ、過去!割り切りなさい!杉田 梓!

何度も同じ事を自分に言い聞かせる。


「債権者の書類は見たか?」


植草君が少し真面目な顔で聞いて来る。

前の会社から来た手紙。

お給料と退職金に対する債権を請求するかしないかを弁護士に通知する手紙が来てた。


「まだ出してないの…。」

「社長さ、癌で今は入院中なんだ…。」


信じられない言葉だった。


「嘘?」

「本当。余命宣告をされたんだ。だから家族を守る為にいきなり会社を倒産させたらしい。」


社長の家には今も奥さんと娘さん夫婦とお孫さんが住んでる。

娘さんは一人娘だ。

会社には少ないけれど借金がある。

社長が急に亡くなれば借金取りが奥さん達のところに押し寄せる。

それを防ぐ為に社長は会社を強引に倒産させたらしい。


「奥さん達はどうなるの?」

「自宅だけは元々奥さんの名義にしてて会社の財産からは切り離されてるから大丈夫らしい。でも何人かの社員と債権を諦めようって話をしてるんだ。」


植草君も諦めると言う。

古くから務めてる人はともかく、私や植草君くらいの若い社員は退職金なんか大した金額じゃない。



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