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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「…でもな。残念ながら、果物でも木でも鳥でも無ぇぞ?普通の髪飾りだ」
「なーんだ、それなら相談とかしなくったって良いのに!大喜びで付けるに決まってるじゃない。その髪飾りも、こちらのお家に伝わる物なの?」
「いや、そうじゃねえ。譲られ物では有るけどな…そんなに変な物じゃあねえよ。お前にも似合うだろうし、このドレスにも合う筈だ」
「そうなのね!楽しみにしてるわ」
「ああ……しかし、誂えのドレスってなぁ凄ぇな。出来合いとこんなに違うたぁ思わなかったぞ」
以前姫が着たドレスは、所詮既製品です。姫の体にぴったりでは有りませんでした。
しかし、このお披露目のドレスは違います。
この地でも一、二を争う仕立て屋が、姫の体に合わせて、なだらかな曲線を最大限に美しく見せるように、腕によりを掛けて作り上げたものでした。
「そんなに、違うかしら?」
「ああ。今考えりゃ、この前のは『お前が着てるすげぇ綺麗なドレス』だったな」
「へ?」
「これは『お前をすげぇ綺麗にするドレス』だ」
「…それって、違うの?」
「違うだろ。お前が着ているすげぇ綺麗なドレスを脱がせたら、中身はお前だろ?お前をすげぇ綺麗にするドレスを脱がせたら、出てくるのはすげぇ綺麗になったお前だろうが」
「うぇええええ?!」
「何だよ。何か気に入らねぇ事言ったか?」
サクナが聞くとスグリ姫は、驚きで目を見開いたまま答えました。

「ぬっ…脱がすのっ!?」
「…そこかよ…」
姫に一番聞かせたかった部分以外の言わばどうでも良い部分に反応されて、サクナはがっくり肩を落としました。

「御当主様?」
「何だ、バンシル…」
「何ならもうお脱がせなさっても構いませんよ、姫様のドレス」
「ぅえええ?!」
二人のやり取りを横目で見つつ自分の為のドレスだと言われた紺のドレスを仕舞いながら、バンシルが軽く言いました。

「お前、珍しく俺に寛大だな。何か有るのか?」
「何も有りゃしませんよ。遅かれ早かれ、そのドレスはお脱ぎにならないといけませんから。今日は試しにお召しになっただけで、着てみた様子を見る目的は果たせましたし、装飾品や髪をどうするかという話まで出来ましたし…ぐずぐず着ていて汚れるよりは、さっさと脱がれた方がましではないかと」
「ええええバンシルぅううう!?」
常ならずサクナに対して協力的で物分りの良すぎるバンシルに、スグリ姫は驚愕しました。
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