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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
(…私のせいでお見合いを破談にさせてしまったのに、祝って下さって…タンム様は本当に、お優しいのね…)
スグリ姫は、見合いを終わらせたいと言う自分の勝手な願いを聞いて自ら身を引いてくれたタンム卿に、深く感謝をしておりました。見合い相手だった間のタンム卿の公の場での振る舞いのあれこれはどれも紳士的なもので、それも姫の「お優しい方」という印象に関わっています。が、「お手合わせの間」で行われた体の相性を確かめる「お見合い」の場で姫がされたことは、全部が全部「お優しい」事だった訳ではありません。
スグリ姫は、タンム卿を最後とする九十九回の見合いで致したあれこれについては、はっきりとは思い出せなくなっておりました。理由は姫が素直で単純でちょっとお馬鹿だった為でもありますし、何よりも百人目かつ最後の婚約者が姫が今までの見合いで経験したことをひとつひとつ塗り潰す様に、執拗に上書きし続けているからです。
そのせいで姫の中には見合いについては良い思い出ばかりが淡く残されることになってしまっているのですが、それは上書きしている当人にとっては、痛し痒しではあるものの致し方ない…という複雑な心情を産んでおりました。
「有り難おいコラ触んなよ」
その「お手合わせ」の記憶を上書きし続けている最後の婚約者であるサクナは、姫が感動している隙に不自然な程にこやかに微笑みながら姫の手を取って口づけようとしたタンム卿の手を、これまたわざとらしく微笑みながら両手で奪い取って握り締めました。
「どう致しまし手が痛いんだが…これは、握手にしては熱烈で強烈過ぎやしないかい?」
サクナの囁き声での恫喝に、タンム卿は聞く者がひやりとする様な冷淡なひそひそ声で応えました。
「遠慮するな。今日来てくれやがった事への、俺からの感謝の気持ちだ」
「普通に感謝してくれて構わないよ?大きな声では言えないが、私は今日の善き日の影の立役者なのだから…と言っても良ければ大きな声で祝辞代わりに全部語って差し上げようか?」
「あの…サクナ?…タンム様…?」
男二人が引き攣る寸前の笑顔で両手を握り合って膠着状態という光景に、姫は困惑致しました。
「…旦那様。奥様が、困っておられます」
「ぐ」
力比べの様相を呈し始めた握手に堪り兼ね、陰の様に控えていた濃紺のドレスがすっと姫とサクナの間の背後に進み出て、鋭く低い声でサクナを諫めました。
スグリ姫は、見合いを終わらせたいと言う自分の勝手な願いを聞いて自ら身を引いてくれたタンム卿に、深く感謝をしておりました。見合い相手だった間のタンム卿の公の場での振る舞いのあれこれはどれも紳士的なもので、それも姫の「お優しい方」という印象に関わっています。が、「お手合わせの間」で行われた体の相性を確かめる「お見合い」の場で姫がされたことは、全部が全部「お優しい」事だった訳ではありません。
スグリ姫は、タンム卿を最後とする九十九回の見合いで致したあれこれについては、はっきりとは思い出せなくなっておりました。理由は姫が素直で単純でちょっとお馬鹿だった為でもありますし、何よりも百人目かつ最後の婚約者が姫が今までの見合いで経験したことをひとつひとつ塗り潰す様に、執拗に上書きし続けているからです。
そのせいで姫の中には見合いについては良い思い出ばかりが淡く残されることになってしまっているのですが、それは上書きしている当人にとっては、痛し痒しではあるものの致し方ない…という複雑な心情を産んでおりました。
「有り難おいコラ触んなよ」
その「お手合わせ」の記憶を上書きし続けている最後の婚約者であるサクナは、姫が感動している隙に不自然な程にこやかに微笑みながら姫の手を取って口づけようとしたタンム卿の手を、これまたわざとらしく微笑みながら両手で奪い取って握り締めました。
「どう致しまし手が痛いんだが…これは、握手にしては熱烈で強烈過ぎやしないかい?」
サクナの囁き声での恫喝に、タンム卿は聞く者がひやりとする様な冷淡なひそひそ声で応えました。
「遠慮するな。今日来てくれやがった事への、俺からの感謝の気持ちだ」
「普通に感謝してくれて構わないよ?大きな声では言えないが、私は今日の善き日の影の立役者なのだから…と言っても良ければ大きな声で祝辞代わりに全部語って差し上げようか?」
「あの…サクナ?…タンム様…?」
男二人が引き攣る寸前の笑顔で両手を握り合って膠着状態という光景に、姫は困惑致しました。
「…旦那様。奥様が、困っておられます」
「ぐ」
力比べの様相を呈し始めた握手に堪り兼ね、陰の様に控えていた濃紺のドレスがすっと姫とサクナの間の背後に進み出て、鋭く低い声でサクナを諫めました。