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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「そうですかい?そんなに持ち上げられると、照れやすねー」
スグリ姫に褒めちぎられ、サクナにも一応褒められたと言っても良い言葉を掛けられたビスカスは、えへへーと照れて笑いました。

ビスカスは普段、清潔ではありますが綺麗とは言えない、楽で動きやすい事だけが取り柄の様なずるずるした服を、かなりだらっと着ています。ところが、今日は全く違いました。仕立ても質も良さそうなしっかりした正装にぴしりと身を包んでいるビスカスは、普段の五割増しで男前に見えました。その上いつもの様にへらへらせずに真面目な顔をしていると、誰に聞いても男前の部類に入るだろうと言うくらい、雰囲気の有る男性に見えました。

「ええ!とっても立派に見えるし、良くお似合いだわ!!」
「いやいやー、そんなに褒めて頂く程じゃあ」
サクナは何度か「化けた」ビスカスを見たことが有りましたが、スグリ姫はちゃんとした格好のビスカスを見たのは初めてです。化けるといつもとは別人の様に凛々しく見えるので、姫が驚いて褒めるのも止む無し…とサクナも最初は思っておりました。しかし姫が余りにも褒め続けるので、サクナの常に無い程の機嫌の良さに、徐々に暗雲が立ち込めて参りました。

「ちゃんとしたら、こんなに素敵なのねえ!なんだか勿体ないわ…いつもは無理でも、時々そういう風になさってたら良いのに!」
「いやー、そりゃちょっと…息が詰まりやすんで」
姫に褒めに褒められまくったビスカスは、嬉しさ半分、どこかから忍び寄ってくる不穏な空気半分で、姫の提案を謹んでお断りしました。

「ビスカス。襟を開けない。」
姫に苦笑混じりで答えながら無意識に襟元に手をやったビスカスに、短い叱責が飛びました。
「あ。すいやせん、お嬢様。ついうっかりって奴で」
「ビスカス。」
「へい?」
「言葉遣い。」
「へ…はい、お嬢様。申し訳御座いません」
「…ビスカスよ…」
「はい、サクナ様?」
叱責に次ぐ叱責の後で、いっそのんびりしたと言うような声に呼ばれて、ビスカスはそちらを向きました。
「…お前に大事な話が有る…明日朝一で部屋に来い…」
ビスカスが向き直って見た物は、目がまるで笑っておらず口元だけが弧を描いている、この家の当主の姿でした。
「うげぇっ?!」
「ビスカス。言葉。」
「…はいっ…」
ビスカスは、悪い事などしていないのに、いわれ無きとばっちりに翻弄されました。
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