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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様

しばらく歓談を楽しんだ後、スグリ姫は奥様方の集まりから、一旦席を外しました。そしてふわふわした足取りで、けれどなるべく控え目にと気を配りながら宴席を横切って、扉から廊下へ出ようとしておりました。

「…スグリ様?どちらへ」
「あ!クロウさんっ!!」
扉の近くにはクロウが立っておりました。クロウに声を掛けられて、姫はにこぉーっと嬉しそうに笑いました。
 
「お会い出来て、嬉しいわ!私、お手洗いに行って来るわね!」
「…果物の酒を、召し上がられましたね…?」
数時間前に会っているのに抱き付かんばかりに再会を喜ぶ様子と、「お手洗いに行く」等という家令とは言え男性に堂々と宣言するのは憚られる様な単語を子どものように朗らかに報告してくる様子に、クロウは眉を寄せました。
「ええ!召し上がったし、お勧めもしたわ!みなさん、とーってもお気に召したって!」
「左様で御座いますか…」
「ええ!」
クロウの眉間の皺は減るどころか増えていましたが、姫はそれを気にも留めずに、嬉しくて堪らない様に言いました。
「うちのお酒を気に入って下さるって、とーっても嬉しいことね?後日ぜひ譲って欲しい、っておっしゃって下さった方も、沢山いらしたのよーう!」
「…成る程。」
妻の務めを立派に果たせた実感に、姫はくふふふふっと笑いましたが、クロウの眉間の皺は、少しも減りませんでした。
「スグリ様。」
「なあに、クロウさん?」
「私、些か心配なので、スグリ様に付いて参っても宜しいですか?」
「…へ?お手洗いに?」
「はい」
クロウは家令の心遣いとして、そう言ったのですが。

「だめだめだめっ!いくらクロウさんでも、淑女の秘密の退席に着いて来るなんて、だめっ!」
姫に、一蹴されました。

(ご自分でお手洗い宣言しておいて何が淑女ですか今更秘密でも何でも無いでしょうに)
そんな言葉がクロウの頭を高速で過りましたが、クロウの方ではまだそれほど親しくなったとは言い難いスグリ姫に、そのようなあからさまな事を言うのは躊躇われました。
姫の方ではクロウに対して、既に相当親しくなったという心持ちで居りましたので、おそらくそれを言われても全く気にせず笑いながら「あら?本当にそうだわねー!」と言うだけだった事でしょう。
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